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春人ルート
第100話
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少し時が経って、歯車が噛み合ったような生活が始まった。
「ご、ごめんなさ、」
「そんなに気にする必要はない。君が悪いわけじゃないんだから」
あれから知ったのは、春人は本当に甘いものが好きだということ。
「…相変わらず君は料理が上手いんだね」
「一般程度、だと思います」
「それ、俺にもやらせて。料理のセンスは壊滅的だけど、食器を片づけるくらいならできるから」
「あ、ありがとうございます」
私の右手の指先はまだ動かないままだ。
それでもいいのかと相変わらず不安になってしまうことも多いけれど、春人が前より言葉にして気持ちを伝えてくれるようになったからいつも心が温かい。
「…ごめん、今日は仕事で遅くなると思うから留守番をお願いしてもいい?」
「分かりました。いってらっしゃい」
「うん。…いってきます」
それからもうひとつ。
春人に抱きしめられて、そっとキスをする…そんなことが習慣になりつつある。
恥ずかしくなって目を合わせられなくなるけれど、それでもいいと彼はいつも笑ってくれるのだ。
「…動かせるとよかったんですけど」
右手を見ながら息をひとつ吐いて、ラビとチェリーに話しかける。
「ふたりはどんな気持ちでここからの景色を見ているんでしょうか」
退院祝にと夏彦さんがふたりの服を作ってくれた。
秋久さんからは食器、冬真さんからは手作りのお菓子をもらって今でも少しずつ食べている。
「──お願い、蕀さんたち」
こういう人がいないときに少しでも蕀さんを出しておかないといざというときに動けない気がして、今夜もつい無意識のうちに言葉にしてしまった。
「…それ出すときは俺がいるときにしてって言ったのに」
「お、おかえりなさい。今日は早かったんですね」
「まあまあ手応えがある仕事だったけど、やっとケリがついたんだ」
最近新しい仕事を受けたという話は聞いていたけれど、まさかこんなに早く解決したとは思わなかった。
「…そうだ」
「あ、あの…?」
春人は包帯を巻いてくれていた手にそっと口づけて、吃驚するくらい明るく笑った。
「ただいま」
「今日も怪我がなさそうでよかったです」
「なさそう、じゃなくてしてない」
「これ、ありがとうございます。何か温かいものを淹れますね」
ポットのお湯を沸かしていると、後ろから抱きしめられて身動きが取れなくなる。
「月見」
「な、なんでしょうか?」
「ありがとう。やっぱり君のそういうところ、好きだ」
「あ、え、」
固まってしまうばかりの私の耳許で、ふっと笑う気配がする。
「俺はこういう経験がないから、やっぱり距離感が難しいんだけど…これで大丈夫?」
「は、はい。恥ずかしいけど、嫌なわけではないので」
「…そう」
かちかちと懐中時計の針の音がする。
これからふたりで、この時計と同じくらい時を刻んでいくんだろう。
月明かりに照らされるなか、ポットから出てくる湯気を浴びながら春人のぬくもりを感じていた。
「ご、ごめんなさ、」
「そんなに気にする必要はない。君が悪いわけじゃないんだから」
あれから知ったのは、春人は本当に甘いものが好きだということ。
「…相変わらず君は料理が上手いんだね」
「一般程度、だと思います」
「それ、俺にもやらせて。料理のセンスは壊滅的だけど、食器を片づけるくらいならできるから」
「あ、ありがとうございます」
私の右手の指先はまだ動かないままだ。
それでもいいのかと相変わらず不安になってしまうことも多いけれど、春人が前より言葉にして気持ちを伝えてくれるようになったからいつも心が温かい。
「…ごめん、今日は仕事で遅くなると思うから留守番をお願いしてもいい?」
「分かりました。いってらっしゃい」
「うん。…いってきます」
それからもうひとつ。
春人に抱きしめられて、そっとキスをする…そんなことが習慣になりつつある。
恥ずかしくなって目を合わせられなくなるけれど、それでもいいと彼はいつも笑ってくれるのだ。
「…動かせるとよかったんですけど」
右手を見ながら息をひとつ吐いて、ラビとチェリーに話しかける。
「ふたりはどんな気持ちでここからの景色を見ているんでしょうか」
退院祝にと夏彦さんがふたりの服を作ってくれた。
秋久さんからは食器、冬真さんからは手作りのお菓子をもらって今でも少しずつ食べている。
「──お願い、蕀さんたち」
こういう人がいないときに少しでも蕀さんを出しておかないといざというときに動けない気がして、今夜もつい無意識のうちに言葉にしてしまった。
「…それ出すときは俺がいるときにしてって言ったのに」
「お、おかえりなさい。今日は早かったんですね」
「まあまあ手応えがある仕事だったけど、やっとケリがついたんだ」
最近新しい仕事を受けたという話は聞いていたけれど、まさかこんなに早く解決したとは思わなかった。
「…そうだ」
「あ、あの…?」
春人は包帯を巻いてくれていた手にそっと口づけて、吃驚するくらい明るく笑った。
「ただいま」
「今日も怪我がなさそうでよかったです」
「なさそう、じゃなくてしてない」
「これ、ありがとうございます。何か温かいものを淹れますね」
ポットのお湯を沸かしていると、後ろから抱きしめられて身動きが取れなくなる。
「月見」
「な、なんでしょうか?」
「ありがとう。やっぱり君のそういうところ、好きだ」
「あ、え、」
固まってしまうばかりの私の耳許で、ふっと笑う気配がする。
「俺はこういう経験がないから、やっぱり距離感が難しいんだけど…これで大丈夫?」
「は、はい。恥ずかしいけど、嫌なわけではないので」
「…そう」
かちかちと懐中時計の針の音がする。
これからふたりで、この時計と同じくらい時を刻んでいくんだろう。
月明かりに照らされるなか、ポットから出てくる湯気を浴びながら春人のぬくもりを感じていた。
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