裏世界の蕀姫

黒蝶

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冬真ルート

第32話

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冬香さんから預かった花は綺麗に咲いたままだ。
言われたとおりにお世話していると、本当に枯れづらいらしい。
「今日はちょっと出掛けるけど、一緒に来る?」
「お邪魔になりませんか…?」
「全然。寧ろひとりにしておくより一緒に来てもらえた方が安心できる」
冬真は相変わらず優しい。
それに、いつも周りの人たちのことを見ていて本当にすごいと思う。
後ろをついていくと、なんだか可愛らしいお店に辿り着いた。
「いらっしゃいませ」
「いつもの席を借りたい」
「今なら誰もいないからどうぞ。…月見、苦手な飲み物はない?」
「だ、大丈夫だと思います」
雪乃は無言で建物の奥に入っていって、そのまま飲み物を淹れはじめた。
どんな目的でここに来たのか分からないまま、冬真と向かい合わせになるように座る。
「今日は何か特別なことをしに来たわけじゃない」
「え…?」
「そんなに心配しなくても別に危ないことはしないし、強いて言うなら様子を見に来ただけなんだ」
「雪乃の、ですか?」
「雪乃がというより、事件の──」
冬真がそこまで話したとき、少し離れた場所から苦しそうな声が聞こえる。
「ごめん、ちょっとここで待ってて」
「えっと…」
何も答えられずにいると、冬真は小走りで声がした方に走っていった。
「雪乃、この人どこから来たの?」
「…近くの珈琲豆専門店」
その間にも、痛みを堪えているような声とかちゃかちゃと何かを準備している音が聞こえる。
「出血が酷い。なんでもいいから使えそうな布があれば持ってきて。
あと、この人を病院に運んだ方がいい。…身元がはっきりしてるから、僕のところじゃなくても大丈夫」
「分かった」
ただ座っていることなんてできなくて、冬真がいる方へ足を向ける。
折角用意してくれた洋服なので申し訳なく思うけれど、人の命がかかっているなら躊躇している場合じゃない。
何か使えるものがないか探していると、目の前にあるものが転がっていた。
「…あの、これも使えますか?」
「君、それ…」
「ごめんなさい。ハンカチだけでは足りないんじゃないかと思ったので、洋服を切りました」
怒られてしまうと思っていたのに、冬真はただふっと笑った。
「ありがとう。そこで待ってて」
「は、はい」
血が沢山流れているのは少し離れた場所からでも分かった。
ただ、その人がどうしてそんな怪我を負っているのかまでは分からない。
「月見は、ああいう光景を見ても平気なの?」
「痛そうだな、とは思います。だけど、見ていても平気です」
「…看護助手とか向いているかもしれない」
雪乃の一言がよく聞こえなかったけれど、聞き返す前に大きなサイレンが聞こえてくる。
真っ白な服に見を包んだ人たちが倒れていた人を運んでいった。
「これでもう大丈夫。ふたりのおかげで助かった。ありがとう」
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