物置小屋

１人向け・other

『洋服屋』の覚悟(裏稼業side-B・彼の覚悟の話です)

ごめんね、今日も手伝ってもらっちゃって...。
それにしても、君は本当に器用だね。
俺が手縫いで同じものを作ろうと思っても、絶対できないよ。
怪我しなかった？それならいいけど、もし何か必要なものがあったらすぐ言ってね。
折角あの場所から自由になれたんだから、君が好きなように過ごしていいんだよ。
...少なくとも、俺はそう思ってる。
もうちょっとで仕事終わるし、もうちょっとだけ待っててね。

お疲れ様。店の片づけも終わったし、今日は帰ろうか。
...と、思ったんだけど、残念ながら真っ直ぐ帰れそうにない。
もうちょっとだけ待ってて。

...鍵は閉めたし、きっと大丈夫なはずだ。
ねえ、なんで今更俺の前に現れるの？
やっぱりそういうことなんだ。意志にそぐわない者は要らないって言ってたのに、結局俺にあんたと同じことをさせたいの？
それとも、この場で俺のことも兄貴みたいに殺すの？
...どのみち、俺はあんたたちに関わるつもりなんてない。
ここから去るつもりがないなら、力づくでも消えてもらう。
悪いけど、あんたたちの仕事を継ぐつもりなんてないから。

...やっぱり強いね。どうでもいいけど、今の俺はあんたたちとは赤の他人だ。
優秀なんだよ、俺の仲間や友人は。
おまえの血が流れてるって考えただけでも吐き気がする。
...これ以上この店を荒らすなら失せろ。
そして二度と俺たちに関わるな。俺の近くの人間に手を出したらどうなるか...覚えておけ。
...助けに来てくれたの？そうなんだ、あの子から連絡...。ごめん、ちょっと予想以上に深かったみたい。
止血だけしてもらってもいい？
彼女を怖がらせたくないし、応急処置だけで充分だから。

ごめんね、お待たせ...そんなに泣かなくても、大した怪我はしてないよ。
そんなに謝らないで。ごめんね、まさか扉を刃物でこじ開けようとするなんて思わなくて...。
この程度刺されたくらいじゃ死なないよ。
それより、他の人たちに連絡してくれてありがとう。
さっきの話も聞こえちゃっただろうから、ちょっとだけ事情を説明しておくね。
...俺の家、やばいお仕事をしてるんだ。
まあ、俺も個人的にちょっとした秘密の仕事はしてるんだけど、流石に人を殺したことはない。
俺には尊敬する兄がいたんだけど、あいつらの...家の命令に逆らって殺されたんだ。
だから家を出て、二度と関わらないようにしてきた。
...ごめんね、詳しいことは話せないんだ。
だけど、兄はすごい人だったよ。こんな傷くらいなら、きっとひとりで頑張ってたと思う。
だけど俺は、君に寄りかかっちゃってるからまだまだだね。
...ありがとう。俺の為に泣いてくれる人なんてもういないと思ってた。
君のことを護れて、本当によかった...。
ごめん、少し休むね。もし君がいなかったら、俺はきっと...ううん、なんでもない。
休憩が終わったら、すぐ帰ろうね。
君が作ってくれるご飯が、食べたいから。
ｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰ
彼が抱える事情は、決して人には話せないものでした。
自分にもそういうものがあるからか、綴っていきやすいシリーズではあります。
いつものように少しだけ仲間たちを登場させることができたので、綴れてよかったと思います。