物置小屋

１人向け・other

拝啓、紅葉が色づいたので(手紙シリーズです)

あなたは今、元気にしていますか？…僕は少しだけ疲れてしまいました。
一緒にいる時間が多い頃は、ずっと何かしら花を見に出掛けていましたね。
春になると桜並木の下でコンビニおにぎりを食べて、夏になると向日葵畑で写生をして…。秋になると、秋桜を見に行きましたね。
とても些細なことだからあなたは覚えていないかもしれないけど、僕はよく覚えています。
今年は秋桜を見られなかったので、ひとりで向日葵畑の跡地を見に行きました。
あの場所、なんと紅葉が見られる場所になったんです。
…ふたりで見ていた景色は戻ってこないけど、もしよかったら冬の約束をさせてください。
どうやら今年の冬、あなたが見たがっていた珍しい花が咲くらしいのです。
僕が分かるのは花言葉くらいなものだけど、君に会いたいと思って手紙を出したんだ。
一緒に過ごせたら何を話そう、もしも一緒に見られたらどんなことをしようって…今考えるだけで楽しいです。
もし君がきたくないと思ったら、この手紙は捨ててください。どんな答えが返ってきたとしても、僕はその答えを受け止めようと思います。
文章を書くのってあんまり得意じゃないんだけど、君と話がしたいんだ。
これだけでは味気ないので、近くで拾った銀杏と紅葉を使った押し花を同封しておきます。
栞だけでも使ってもらえるといいんだけど…。
そういえば、もう少しだけなら紅葉を楽しめそうです。もしよかったらそっちも一緒に見る機会があったら嬉しいな。
取り敢えず、今は君からの返事を待とうと思います。真面目で律儀だから、きっと返事を書いてくれるんだろうなって…とにかく待ってるね。
住所が変わったから、最後に書いておこうと思います。


…よし、これでいいかな。
まさか体調が安定しているうちに約束を果たしたいです、なんて書くわけにはいかないし…どうしよう、ちょっと恥ずかしくなってきちゃった。
会いに来てくれるといいな。そのときは、ちゃんとこの気持ちを伝えよう。
…住所や消印で病院だって分からないといいな。
ｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰ
彼は体が弱く、病院から思いを綴ることにしました。
届いたのか、或いは読まれることもなく終わったのか…それは、想像におまかせします。