物置小屋

黒蝶

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物語の欠片

激甘時間(物念シリーズの小説版です)

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今日こそ言えるだろうか。
今日こそ彼女に、僕についての話をする。…いや、しなければならない。
「…こんばんは」
「こんばんは。今日も早いね」
いつもの言葉に、いつもの風景。
この状況で話すのは、流石に無理かもしれない。
泣きそうな彼女と視線を合わせるようにして、彼女が壊れてしまわないようにできるだけ優しく頬を触る。
「今日も何か嫌なことがあったの?」
「…どうして人間関係ってこんなに難しいんだろうって思っただけ」
僕にはその言葉の意味がよく分からない。
ただ、そっかと相槌を打って終わってしまう。
「だけど、いいこともあったよ」
「いいこと?」
「うん。チョコレート作ったの。食べる?」
「ありがとう。後でもらおうかな」
彼女は僕が食べられないことを知っているのか、それ以上無理強いはしてこなかった。
なんとなくではあるが、彼女は人とあまり関わらないようにしているような気がする。
気がするだけかもしれないけど、いつも近くにいる僕としてはそう見えて仕方がないのだ。
「嫌なことがあったのに、わざわざ用意してくれてありがとう」
「私にはあなたがいるから平気でいられるわけだし、いつも側にいてくれて嬉しいの。
だから、こんなときくらい私があなたを笑顔にしたいと思ったんだ」
「ありがとう、すごく嬉しいよ」
彼女に笑ってほしくて、ついいつもの調子で答えてしまう。
「…やっぱり今日も言えそうにない」
「どうしたの?」
「ううん、なんでもない!それより、早く寝ないと明日寝坊しちゃうかもしれないよ?」
「それもそうだね。今日も沢山話をしてくれてありがとう。それじゃあ電気消すね。…おやすみ」
時計の針は深夜3時をさしている。
いつものことながら、彼女は本当に睡眠時間が少なくて心配になった。
彼女に出会ったばかりの頃を思い出しながら、僕も横になる。


──月明かりに照らされるベッドの上では、独りの少女と彼女の手のひらにのりそうな大きさのくまのぬいぐるみが寄り添うように眠っていた。
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テディベア…割りと好きなので、普段台本にする物念シリーズを小説風にしてみました。
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