物置小屋

黒蝶

文字の大きさ
1,852 / 1,921
物語の欠片

バニラと秘蜜とストロベリー(恋の話)※異性同士の恋愛以外が苦手な方は読まないことをおすすめします。

しおりを挟む
「清香」
「あら、おはよう奏」
生徒会長の時任清香と放送部部長の朝倉奏は、いつもどおりふたりきりで放送室を使っている。
「今日は帰りに行きたい場所があるんだ。一緒に来てくれる?」
「分かったわ。生徒会の仕事も早く片づくだろうし、時間を空けておくわね」
「ありがとう」
そんな他愛のない話をしているふたりは、放課後まではほとんど会えない。
…否、会わないようにしていると言った方が正確だろうか。
「今日は私が先に出るわね」
「うん。じゃあまた後で」
そうして放課後、奏を見つけた清香は早速声をかけようとした。
……が、奏の隣には知らない生徒が立っている。
「朝倉さん、よかったらそれ持とうか?」
「ありがとう。だけどこれは僕が持っていくから、向こうの人たちを手伝ってあげて」
「朝倉さんって優しいんだね」
「そんなことないよ」
ふたりが話しているところを、清香はじっと見つめていた。
そんな彼女の姿を見つけ、奏はすぐ話を切りあげる。
「ごめん、僕もう行くね」
「あ……」
男子生徒は残念そうな顔で奏を見ていたが、それを知っているのは清香だけだ。
「あの方は構わないの?」
「いいんだ。これを職員室まで運んだら終わりだから、下駄箱で待ってて」
「分かりました」
遠ざかる後ろ姿を清香はただ見送る。
言われたとおり下駄箱で待っていると、そんなに時間が経たないうちに奏が走ってきた。


「おしとやかキャラって疲れない?」
いつものお気に入りのカフェ、ふたりはそれぞれお気に入りのパフェを食べながら話をする。
個室で同じ学校の人がいる心配もない……そういった場所でのみ清香は素で話す。
「疲れるよ。だけど近寄りがたいって思われた方がマシかなって…。奏は随分楽しそうにしてたね」
「そんなふうに見えた?人と話すの苦手なのがばれないように繕ってたんだけだよ。
それより清香、さっき嫉妬してなかった?」
その一言に、清香は動揺してスプーンを落としそうになった。
「し、してない」
「嘘はよくないよ」
「ちょっと、かな、」
「じっとしてて」
奏はにやりと笑って清香の顎を持ちあげたかと思うと、口元をハンカチで拭った。
「ソース、ついてたよ」
「もう……」
「誰も僕たちがこんな仲だって気づいてないだろうけど、知られたら面倒でしょ?
だからこうして放課後デートで我慢してるわけだし」
「気をつけてね。あの男子、多分あなたのことが好きだから」
「それは困るよ。僕が好きなのは清香だけなのに」
「苺パフェ、一口もらうね」
「ええ…まあいいけど。じゃあ僕はバニラをもらおうかな」
一口ずつ食べさせあいっこして、秘密の時間は過ぎていく。
それからしばらく他愛のない会話を続けた。
鴉が鳴きはじめた頃、人通りが少なくなったのを確認してふたりは店を出る。
駅の近くまで着いたところで、清香は体の向きを変えた。
「また明日朝学校で」
「そんなに寂しがらないでよ。……今夜ビデオ通話しよう。こっちからかけるから」
「分かった。楽しみにしてる」
ふたりは抱き合ってキスをする。
「もう少しこうしていたかった」
「僕もだよ。今夜のことを考えただけで今からわくわくするよ」
ふたりは笑い合って、そのまま別々の道を歩きはじめる。
学校でできるだけ会わないようにしているのは、人前で愛が口から零れるのを防ぐためだ。
乙女同士が恋をする…それを表立って話す難しさをふたりは知っている。
それでも好きなものは止められない。
燃えあがった秘密はふたりの絆をより強くした。
時にはバニラのように甘く、時には苺のように酸っぱい想い……それを止める権利なんて誰にもない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
あまり書いたことがない系統のものをやってみました。
本来であれば最後まで同性愛と分からないように表現したかったのですが、苦手な方もいらっしゃると思うので注意書きをつけました。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

処理中です...