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物語の欠片
バニラと秘蜜とストロベリー(恋の話)※異性同士の恋愛以外が苦手な方は読まないことをおすすめします。
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「清香」
「あら、おはよう奏」
生徒会長の時任清香と放送部部長の朝倉奏は、いつもどおりふたりきりで放送室を使っている。
「今日は帰りに行きたい場所があるんだ。一緒に来てくれる?」
「分かったわ。生徒会の仕事も早く片づくだろうし、時間を空けておくわね」
「ありがとう」
そんな他愛のない話をしているふたりは、放課後まではほとんど会えない。
…否、会わないようにしていると言った方が正確だろうか。
「今日は私が先に出るわね」
「うん。じゃあまた後で」
そうして放課後、奏を見つけた清香は早速声をかけようとした。
……が、奏の隣には知らない生徒が立っている。
「朝倉さん、よかったらそれ持とうか?」
「ありがとう。だけどこれは僕が持っていくから、向こうの人たちを手伝ってあげて」
「朝倉さんって優しいんだね」
「そんなことないよ」
ふたりが話しているところを、清香はじっと見つめていた。
そんな彼女の姿を見つけ、奏はすぐ話を切りあげる。
「ごめん、僕もう行くね」
「あ……」
男子生徒は残念そうな顔で奏を見ていたが、それを知っているのは清香だけだ。
「あの方は構わないの?」
「いいんだ。これを職員室まで運んだら終わりだから、下駄箱で待ってて」
「分かりました」
遠ざかる後ろ姿を清香はただ見送る。
言われたとおり下駄箱で待っていると、そんなに時間が経たないうちに奏が走ってきた。
「おしとやかキャラって疲れない?」
いつものお気に入りのカフェ、ふたりはそれぞれお気に入りのパフェを食べながら話をする。
個室で同じ学校の人がいる心配もない……そういった場所でのみ清香は素で話す。
「疲れるよ。だけど近寄りがたいって思われた方がマシかなって…。奏は随分楽しそうにしてたね」
「そんなふうに見えた?人と話すの苦手なのがばれないように繕ってたんだけだよ。
それより清香、さっき嫉妬してなかった?」
その一言に、清香は動揺してスプーンを落としそうになった。
「し、してない」
「嘘はよくないよ」
「ちょっと、かな、」
「じっとしてて」
奏はにやりと笑って清香の顎を持ちあげたかと思うと、口元をハンカチで拭った。
「ソース、ついてたよ」
「もう……」
「誰も僕たちがこんな仲だって気づいてないだろうけど、知られたら面倒でしょ?
だからこうして放課後デートで我慢してるわけだし」
「気をつけてね。あの男子、多分あなたのことが好きだから」
「それは困るよ。僕が好きなのは清香だけなのに」
「苺パフェ、一口もらうね」
「ええ…まあいいけど。じゃあ僕はバニラをもらおうかな」
一口ずつ食べさせあいっこして、秘密の時間は過ぎていく。
それからしばらく他愛のない会話を続けた。
鴉が鳴きはじめた頃、人通りが少なくなったのを確認してふたりは店を出る。
駅の近くまで着いたところで、清香は体の向きを変えた。
「また明日朝学校で」
「そんなに寂しがらないでよ。……今夜ビデオ通話しよう。こっちからかけるから」
「分かった。楽しみにしてる」
ふたりは抱き合ってキスをする。
「もう少しこうしていたかった」
「僕もだよ。今夜のことを考えただけで今からわくわくするよ」
ふたりは笑い合って、そのまま別々の道を歩きはじめる。
学校でできるだけ会わないようにしているのは、人前で愛が口から零れるのを防ぐためだ。
乙女同士が恋をする…それを表立って話す難しさをふたりは知っている。
それでも好きなものは止められない。
燃えあがった秘密はふたりの絆をより強くした。
時にはバニラのように甘く、時には苺のように酸っぱい想い……それを止める権利なんて誰にもない。
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あまり書いたことがない系統のものをやってみました。
本来であれば最後まで同性愛と分からないように表現したかったのですが、苦手な方もいらっしゃると思うので注意書きをつけました。
「あら、おはよう奏」
生徒会長の時任清香と放送部部長の朝倉奏は、いつもどおりふたりきりで放送室を使っている。
「今日は帰りに行きたい場所があるんだ。一緒に来てくれる?」
「分かったわ。生徒会の仕事も早く片づくだろうし、時間を空けておくわね」
「ありがとう」
そんな他愛のない話をしているふたりは、放課後まではほとんど会えない。
…否、会わないようにしていると言った方が正確だろうか。
「今日は私が先に出るわね」
「うん。じゃあまた後で」
そうして放課後、奏を見つけた清香は早速声をかけようとした。
……が、奏の隣には知らない生徒が立っている。
「朝倉さん、よかったらそれ持とうか?」
「ありがとう。だけどこれは僕が持っていくから、向こうの人たちを手伝ってあげて」
「朝倉さんって優しいんだね」
「そんなことないよ」
ふたりが話しているところを、清香はじっと見つめていた。
そんな彼女の姿を見つけ、奏はすぐ話を切りあげる。
「ごめん、僕もう行くね」
「あ……」
男子生徒は残念そうな顔で奏を見ていたが、それを知っているのは清香だけだ。
「あの方は構わないの?」
「いいんだ。これを職員室まで運んだら終わりだから、下駄箱で待ってて」
「分かりました」
遠ざかる後ろ姿を清香はただ見送る。
言われたとおり下駄箱で待っていると、そんなに時間が経たないうちに奏が走ってきた。
「おしとやかキャラって疲れない?」
いつものお気に入りのカフェ、ふたりはそれぞれお気に入りのパフェを食べながら話をする。
個室で同じ学校の人がいる心配もない……そういった場所でのみ清香は素で話す。
「疲れるよ。だけど近寄りがたいって思われた方がマシかなって…。奏は随分楽しそうにしてたね」
「そんなふうに見えた?人と話すの苦手なのがばれないように繕ってたんだけだよ。
それより清香、さっき嫉妬してなかった?」
その一言に、清香は動揺してスプーンを落としそうになった。
「し、してない」
「嘘はよくないよ」
「ちょっと、かな、」
「じっとしてて」
奏はにやりと笑って清香の顎を持ちあげたかと思うと、口元をハンカチで拭った。
「ソース、ついてたよ」
「もう……」
「誰も僕たちがこんな仲だって気づいてないだろうけど、知られたら面倒でしょ?
だからこうして放課後デートで我慢してるわけだし」
「気をつけてね。あの男子、多分あなたのことが好きだから」
「それは困るよ。僕が好きなのは清香だけなのに」
「苺パフェ、一口もらうね」
「ええ…まあいいけど。じゃあ僕はバニラをもらおうかな」
一口ずつ食べさせあいっこして、秘密の時間は過ぎていく。
それからしばらく他愛のない会話を続けた。
鴉が鳴きはじめた頃、人通りが少なくなったのを確認してふたりは店を出る。
駅の近くまで着いたところで、清香は体の向きを変えた。
「また明日朝学校で」
「そんなに寂しがらないでよ。……今夜ビデオ通話しよう。こっちからかけるから」
「分かった。楽しみにしてる」
ふたりは抱き合ってキスをする。
「もう少しこうしていたかった」
「僕もだよ。今夜のことを考えただけで今からわくわくするよ」
ふたりは笑い合って、そのまま別々の道を歩きはじめる。
学校でできるだけ会わないようにしているのは、人前で愛が口から零れるのを防ぐためだ。
乙女同士が恋をする…それを表立って話す難しさをふたりは知っている。
それでも好きなものは止められない。
燃えあがった秘密はふたりの絆をより強くした。
時にはバニラのように甘く、時には苺のように酸っぱい想い……それを止める権利なんて誰にもない。
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あまり書いたことがない系統のものをやってみました。
本来であれば最後まで同性愛と分からないように表現したかったのですが、苦手な方もいらっしゃると思うので注意書きをつけました。
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