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物語の欠片
バニラと桜とストロベリー(バニスト)※百合表現あり
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「清香」
「んん……」
珍しくなかなか起きない清香を、奏は体を軽く揺すって起こそうとする。
清香は連日家庭教師のバイトを詰め込み、昼は生徒会長として、夜はバイトに明け暮れていた。
それは今日のためでもあったのだが、奏は清香が無理をしすぎていることに気づいている。
「……早く起きないと、見に行けなくなっちゃうよ?」
「それは困る」
がばっと体を起こした清香は驚愕した。
まだ昼前だったはずが、空がすっかり茜色に染まりきっている。
「ごめん、こんなつもりじゃ…」
「いいんだ。疲れてるんだろうと思って起こさなかっただけだから。
それに、今からの方が人が少なくてゆっくりできると思う」
「ありがとう奏」
「お礼を言われるようなことなんて何もしてないよ。…そろそろ行ってみようか」
「うん」
そうして出かけた先で、予期せぬ事態が発生する。
本来であれば桜の木の下でお弁当を食べたり、ゆっくり桜並木を歩くはずだったが、予想以上の人混みにふたり揃って酔ってしまった。
特に清香は寝不足も相まってかなり顔色が悪い。
「少しここにいて。いいもの見つけたから買ってくる」
「あ……」
奏は清香が伸ばした手に気づかずに、そのまま人混みをかき分け進む。
発見したのは飲み物と桜の枝の販売所だった。
「あれ、朝倉さん?」
クラスメイトの男子に声をかけられ、奏は取り敢えず挨拶する。
彼女の周りに人がいないことを確認して、クラスメイトは声をかけた。
「もしよかったら、一緒に、」
「ごめん。今急いでいるんだ」
奏は必要なものだけ買い、急いでその場を離れる。
予想していたとおり、清香の周りには複数の生徒が集まっていた。
「会長、もしよろしければ私たちと、」
「いいや、俺たちが先だ」
「可愛いね。一緒に盛りあがろうよ」
色々な人から声をかけられ、心が冷めていくのを感じながら清香はそっと目を閉じる。
このままどうにかおさまってくれないかと思っていると、間に割って入った人物がいた。
「ごめん。彼女は僕と来ているんだ。これから用事があって帰るところだから…またね」
黄色い歓声を無視して、奏は清香の手をひいてマンションまで急ぎ足で帰る。
「遅くなってごめん。具合悪くなったりしてない?」
「平気。…奏が来てくれたから」
「少し部屋で休もう」
奏は清香にスポーツ飲料を渡し、ベッドで眠ったのを確認してからある準備をすすめる。
それが終わる頃に清香が起きてきた。
「奏、これって…」
「飲み物と一緒に桜の枝が売ってたんだ。だから、ここで花見すればふたりきりで過ごせるかなって…迷惑だった?」
「ううん、すごく嬉しい」
桜の枝に手作りのお弁当…それに、食べてみたいと話していた桜スイーツ。
奏の気遣いを前に清香の心は温度を取り戻していく。
「これ、準備するの大変だったんじゃない?」
「それほどでもないよ。あくまで僕の思いつきだし…。だけど、喜んでもらえたならよかった」
清香が疲れていることを奏はよく分かっていた。…そして、外で様々な人間に声をかけられて苦い思いをしたことも。
「ありがとう。奏がいてくれるから、心から幸せだって言える」
清香は勢いよく奏に抱きつき、恥ずかしそうに小さく呟く。
冷たさが消えた彼女の姿にほっとしつつ、奏は抱きしめかえした。
「僕の方こそありがとう。清香がいてくれるから今日を笑って過ごせる」
微笑みあった後、ふたりきりのプチお花見がはじまる。
お弁当がいつもより美味しく感じるのは、きっとふたりで食べているからだ。
「清香、口開けて」
「……ん」
口に入れたマカロンの甘さを感じながら、清香は飲み物に手を伸ばす。
花びらが夜の町を舞う頃、清香が今度は奏の口にマカロンを運んだりと甘いひとときを過ごした。
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バニストでお花見させてみました。
「んん……」
珍しくなかなか起きない清香を、奏は体を軽く揺すって起こそうとする。
清香は連日家庭教師のバイトを詰め込み、昼は生徒会長として、夜はバイトに明け暮れていた。
それは今日のためでもあったのだが、奏は清香が無理をしすぎていることに気づいている。
「……早く起きないと、見に行けなくなっちゃうよ?」
「それは困る」
がばっと体を起こした清香は驚愕した。
まだ昼前だったはずが、空がすっかり茜色に染まりきっている。
「ごめん、こんなつもりじゃ…」
「いいんだ。疲れてるんだろうと思って起こさなかっただけだから。
それに、今からの方が人が少なくてゆっくりできると思う」
「ありがとう奏」
「お礼を言われるようなことなんて何もしてないよ。…そろそろ行ってみようか」
「うん」
そうして出かけた先で、予期せぬ事態が発生する。
本来であれば桜の木の下でお弁当を食べたり、ゆっくり桜並木を歩くはずだったが、予想以上の人混みにふたり揃って酔ってしまった。
特に清香は寝不足も相まってかなり顔色が悪い。
「少しここにいて。いいもの見つけたから買ってくる」
「あ……」
奏は清香が伸ばした手に気づかずに、そのまま人混みをかき分け進む。
発見したのは飲み物と桜の枝の販売所だった。
「あれ、朝倉さん?」
クラスメイトの男子に声をかけられ、奏は取り敢えず挨拶する。
彼女の周りに人がいないことを確認して、クラスメイトは声をかけた。
「もしよかったら、一緒に、」
「ごめん。今急いでいるんだ」
奏は必要なものだけ買い、急いでその場を離れる。
予想していたとおり、清香の周りには複数の生徒が集まっていた。
「会長、もしよろしければ私たちと、」
「いいや、俺たちが先だ」
「可愛いね。一緒に盛りあがろうよ」
色々な人から声をかけられ、心が冷めていくのを感じながら清香はそっと目を閉じる。
このままどうにかおさまってくれないかと思っていると、間に割って入った人物がいた。
「ごめん。彼女は僕と来ているんだ。これから用事があって帰るところだから…またね」
黄色い歓声を無視して、奏は清香の手をひいてマンションまで急ぎ足で帰る。
「遅くなってごめん。具合悪くなったりしてない?」
「平気。…奏が来てくれたから」
「少し部屋で休もう」
奏は清香にスポーツ飲料を渡し、ベッドで眠ったのを確認してからある準備をすすめる。
それが終わる頃に清香が起きてきた。
「奏、これって…」
「飲み物と一緒に桜の枝が売ってたんだ。だから、ここで花見すればふたりきりで過ごせるかなって…迷惑だった?」
「ううん、すごく嬉しい」
桜の枝に手作りのお弁当…それに、食べてみたいと話していた桜スイーツ。
奏の気遣いを前に清香の心は温度を取り戻していく。
「これ、準備するの大変だったんじゃない?」
「それほどでもないよ。あくまで僕の思いつきだし…。だけど、喜んでもらえたならよかった」
清香が疲れていることを奏はよく分かっていた。…そして、外で様々な人間に声をかけられて苦い思いをしたことも。
「ありがとう。奏がいてくれるから、心から幸せだって言える」
清香は勢いよく奏に抱きつき、恥ずかしそうに小さく呟く。
冷たさが消えた彼女の姿にほっとしつつ、奏は抱きしめかえした。
「僕の方こそありがとう。清香がいてくれるから今日を笑って過ごせる」
微笑みあった後、ふたりきりのプチお花見がはじまる。
お弁当がいつもより美味しく感じるのは、きっとふたりで食べているからだ。
「清香、口開けて」
「……ん」
口に入れたマカロンの甘さを感じながら、清香は飲み物に手を伸ばす。
花びらが夜の町を舞う頃、清香が今度は奏の口にマカロンを運んだりと甘いひとときを過ごした。
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バニストでお花見させてみました。
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