9 / 236
第2章『初仕事』
第7話
しおりを挟む
学校帰り、私は電車で施設に来ていた。
「また来るね、おばさん」
眠っているおばさんに声をかけ、すぐにその場を離れる。
あの男の人がいるのを見てからあの場所には戻っていない。
もしかすると、荷物が消えたことにも気づいていないんじゃないだろうか。
「……まさか本当にくるとは」
「約束は守りたかったし、お仕事させてもらえるって聞いて楽しみだったから。…私が列車に乗れた理由も分からないままだし」
昨日見た夢についても知りたかった、とは流石に話せない。
「律儀だね」
宵月君は驚いているみたいだったけど、少し古びたマントを渡してくれた。
「このバッジは試験中の証。それと、マントは合格しないとしっかりしたものを支給できない決まりになってる」
「分かった」
ここでも必要とされなかったらどうしよう、という気持ちは正直かなりある。
震える手で受け取って、その場でブレザーだけ脱いで上から羽織ると、宵月君が真っ白な手袋をはめてくれた。
「そんなに怖がらなくていい。不合格だったら車掌になれないだけだから。再試験もあるし」
「…頑張る」
きっと励まそうとしてくれたんだと思うけど、全然フォローになってない。
というより、落ちる前提な気がする。
たしかに私は人と関わるのが苦手だ。
ただ、おばあさんの笑顔を思い出すと誰かの力になりたいと思った。
「今日行くのは転落死したお客様がいらっしゃる車両だから、この前より酷いかもしれない。俺についてきてもらうから」
「…分かった」
宵月君の後をついていくと、ぞろぞろと人が集まりはじめる。
たしかに血まみれの服を着ている人が多いけど、不思議と恐怖は感じなかった。
列車が発車すると同時に、宵月君がある男性に声をかける。
「お客様、何かお困りですか?」
《いや、特には。ありがとうございます》
「そうでしたか。いつでもお声がけください」
にっこり微笑んでいるその評定は、間違いなく学校で見るものとは別物だ。
「ついてきて」
「うん」
通されたのはこの前案内された場所で、宵月君は資料のようなものを広げてそのうち1枚を差し出す。
「さっきのお客様の情報。死因まではまだ見せられないけど、車両ごとに別の死因のお客様がいらっしゃるから見れば分かると思う。
さっきも言ったとおり、今回は転落死した方が乗っている車両だ。お客様の好みや苦手なものについて、書いてあることをできる限り頭に入れて」
「分かった」
渡された資料にはさっきのお客さんのことが書かれていて、少し目を通しただけでなんとなく記憶した。
「いけそう?」
「やってみる」
「…もっと肩の力を抜いて。そんながちがちで立たれたら、お客様が困るから」
「ごめんなさい」
「まあ、初めてだし緊張するのも分かるけど。行こう」
宵月君の後をついていくと、色々な状態の人とすれ違う。
ついこの前まで生きていた人だと思うと、少し胸が痛んだ。
「そろそろ飲み物を注文すると思うから用意しておいて」
「分かった」
昆布茶とお菓子の干し梅が好きだと書かれていたのを思い出して、お茶と一緒に用意しておく。
《あの、そのお茶と干し梅もらえませんか?》
「どうぞ。熱いので気をつけてください」
《ご丁寧に…》
話しているだけだと普通の会話だけど、男性の右腕が崩れかけているのを見てやっぱりこの人も死んでいるんだと自覚する。
できるだけ失礼がないように話しかけてみることにした。
「また来るね、おばさん」
眠っているおばさんに声をかけ、すぐにその場を離れる。
あの男の人がいるのを見てからあの場所には戻っていない。
もしかすると、荷物が消えたことにも気づいていないんじゃないだろうか。
「……まさか本当にくるとは」
「約束は守りたかったし、お仕事させてもらえるって聞いて楽しみだったから。…私が列車に乗れた理由も分からないままだし」
昨日見た夢についても知りたかった、とは流石に話せない。
「律儀だね」
宵月君は驚いているみたいだったけど、少し古びたマントを渡してくれた。
「このバッジは試験中の証。それと、マントは合格しないとしっかりしたものを支給できない決まりになってる」
「分かった」
ここでも必要とされなかったらどうしよう、という気持ちは正直かなりある。
震える手で受け取って、その場でブレザーだけ脱いで上から羽織ると、宵月君が真っ白な手袋をはめてくれた。
「そんなに怖がらなくていい。不合格だったら車掌になれないだけだから。再試験もあるし」
「…頑張る」
きっと励まそうとしてくれたんだと思うけど、全然フォローになってない。
というより、落ちる前提な気がする。
たしかに私は人と関わるのが苦手だ。
ただ、おばあさんの笑顔を思い出すと誰かの力になりたいと思った。
「今日行くのは転落死したお客様がいらっしゃる車両だから、この前より酷いかもしれない。俺についてきてもらうから」
「…分かった」
宵月君の後をついていくと、ぞろぞろと人が集まりはじめる。
たしかに血まみれの服を着ている人が多いけど、不思議と恐怖は感じなかった。
列車が発車すると同時に、宵月君がある男性に声をかける。
「お客様、何かお困りですか?」
《いや、特には。ありがとうございます》
「そうでしたか。いつでもお声がけください」
にっこり微笑んでいるその評定は、間違いなく学校で見るものとは別物だ。
「ついてきて」
「うん」
通されたのはこの前案内された場所で、宵月君は資料のようなものを広げてそのうち1枚を差し出す。
「さっきのお客様の情報。死因まではまだ見せられないけど、車両ごとに別の死因のお客様がいらっしゃるから見れば分かると思う。
さっきも言ったとおり、今回は転落死した方が乗っている車両だ。お客様の好みや苦手なものについて、書いてあることをできる限り頭に入れて」
「分かった」
渡された資料にはさっきのお客さんのことが書かれていて、少し目を通しただけでなんとなく記憶した。
「いけそう?」
「やってみる」
「…もっと肩の力を抜いて。そんながちがちで立たれたら、お客様が困るから」
「ごめんなさい」
「まあ、初めてだし緊張するのも分かるけど。行こう」
宵月君の後をついていくと、色々な状態の人とすれ違う。
ついこの前まで生きていた人だと思うと、少し胸が痛んだ。
「そろそろ飲み物を注文すると思うから用意しておいて」
「分かった」
昆布茶とお菓子の干し梅が好きだと書かれていたのを思い出して、お茶と一緒に用意しておく。
《あの、そのお茶と干し梅もらえませんか?》
「どうぞ。熱いので気をつけてください」
《ご丁寧に…》
話しているだけだと普通の会話だけど、男性の右腕が崩れかけているのを見てやっぱりこの人も死んでいるんだと自覚する。
できるだけ失礼がないように話しかけてみることにした。
0
あなたにおすすめの小説
美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness
碧井夢夏
ライト文芸
<第五回ライト文芸大賞 最終選考・奨励賞>
住宅街とオフィスビルが共存するとある下町にある定食屋「まなべ」。
看板娘の利津(りつ)は毎日忙しくお店を手伝っている。
最近隣にできたコーヒーショップ「The Coffee Stand Natsu」。
どうやら、店長は有名なクリエイティブ・ディレクターで、脱サラして始めたお店らしく……?
神の舌を持つ定食屋の娘×クリエイティブ界の神と呼ばれた男 2人の出会いはやがて下町を変えていく――?
定食屋とコーヒーショップ、時々美容室、を中心に繰り広げられる出会いと挫折の物語。
過激表現はありませんが、重めの過去が出ることがあります。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。
しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。
私たち夫婦には娘が1人。
愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。
だけど娘が選んだのは夫の方だった。
失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。
事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。
再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。
元カノと復縁する方法
なとみ
恋愛
「別れよっか」
同棲して1年ちょっとの榛名旭(はるな あさひ)に、ある日別れを告げられた無自覚男の瀬戸口颯(せとぐち そう)。
会社の同僚でもある二人の付き合いは、突然終わりを迎える。
自分の気持ちを振り返りながら、復縁に向けて頑張るお話。
表紙はまるぶち銀河様からの頂き物です。素敵です!
すべてはあなたの為だった~狂愛~
矢野りと
恋愛
膨大な魔力を有する魔術師アレクサンダーは政略結婚で娶った妻をいつしか愛するようになっていた。だが三年経っても子に恵まれない夫妻に周りは離縁するようにと圧力を掛けてくる。
愛しているのは君だけ…。
大切なのも君だけ…。
『何があってもどんなことをしても君だけは離さない』
※設定はゆるいです。
※お話が合わないときは、そっと閉じてくださいませ。
お姫様は死に、魔女様は目覚めた
悠十
恋愛
とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。
しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。
そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして……
「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」
姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。
「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」
魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……
~春の国~片足の不自由な王妃様
クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。
春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。
街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。
それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。
しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。
花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??
捨てられた王妃は情熱王子に攫われて
きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。
貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?
猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。
疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り――
ざまあ系の物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる