皓皓、天翔ける

黒蝶

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第2章『初仕事』

第7話

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学校帰り、私は電車で施設に来ていた。
「また来るね、おばさん」
眠っているおばさんに声をかけ、すぐにその場を離れる。
あの男の人がいるのを見てからあの場所には戻っていない。
もしかすると、荷物が消えたことにも気づいていないんじゃないだろうか。
「……まさか本当にくるとは」
「約束は守りたかったし、お仕事させてもらえるって聞いて楽しみだったから。…私が列車に乗れた理由も分からないままだし」
昨日見た夢についても知りたかった、とは流石に話せない。
「律儀だね」
宵月君は驚いているみたいだったけど、少し古びたマントを渡してくれた。
「このバッジは試験中の証。それと、マントは合格しないとしっかりしたものを支給できない決まりになってる」
「分かった」
ここでも必要とされなかったらどうしよう、という気持ちは正直かなりある。
震える手で受け取って、その場でブレザーだけ脱いで上から羽織ると、宵月君が真っ白な手袋をはめてくれた。
「そんなに怖がらなくていい。不合格だったら車掌になれないだけだから。再試験もあるし」
「…頑張る」
きっと励まそうとしてくれたんだと思うけど、全然フォローになってない。
というより、落ちる前提な気がする。
たしかに私は人と関わるのが苦手だ。
ただ、おばあさんの笑顔を思い出すと誰かの力になりたいと思った。
「今日行くのは転落死したお客様がいらっしゃる車両だから、この前より酷いかもしれない。俺についてきてもらうから」
「…分かった」
宵月君の後をついていくと、ぞろぞろと人が集まりはじめる。
たしかに血まみれの服を着ている人が多いけど、不思議と恐怖は感じなかった。
列車が発車すると同時に、宵月君がある男性に声をかける。
「お客様、何かお困りですか?」
《いや、特には。ありがとうございます》
「そうでしたか。いつでもお声がけください」
にっこり微笑んでいるその評定は、間違いなく学校で見るものとは別物だ。
「ついてきて」
「うん」
通されたのはこの前案内された場所で、宵月君は資料のようなものを広げてそのうち1枚を差し出す。
「さっきのお客様の情報。死因まではまだ見せられないけど、車両ごとに別の死因のお客様がいらっしゃるから見れば分かると思う。
さっきも言ったとおり、今回は転落死した方が乗っている車両だ。お客様の好みや苦手なものについて、書いてあることをできる限り頭に入れて」
「分かった」
渡された資料にはさっきのお客さんのことが書かれていて、少し目を通しただけでなんとなく記憶した。
「いけそう?」
「やってみる」
「…もっと肩の力を抜いて。そんながちがちで立たれたら、お客様が困るから」
「ごめんなさい」
「まあ、初めてだし緊張するのも分かるけど。行こう」
宵月君の後をついていくと、色々な状態の人とすれ違う。
ついこの前まで生きていた人だと思うと、少し胸が痛んだ。
「そろそろ飲み物を注文すると思うから用意しておいて」
「分かった」
昆布茶とお菓子の干し梅が好きだと書かれていたのを思い出して、お茶と一緒に用意しておく。
《あの、そのお茶と干し梅もらえませんか?》
「どうぞ。熱いので気をつけてください」
《ご丁寧に…》
話しているだけだと普通の会話だけど、男性の右腕が崩れかけているのを見てやっぱりこの人も死んでいるんだと自覚する。
できるだけ失礼がないように話しかけてみることにした。
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