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第2章『初仕事』
第9話
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「お客様、先程のお怪我の具合はいかがですか?」
《大丈夫です。ありがとうございます》
「先ほどお話されていたのを小耳に挟んでしまいまして…よろしければ、私にもお聞かせ願えませんか?」
《勿論。しかし、あまり気分のいい話ではないと思います》
館長は何も気にしていない様子で私を見つめている。
軽く頭を下げると、にこりと微笑んでくれた。
《おかしなことを訊いても構いませんか?》
「勿論です」
《俺は死んだんでしょうか?》
やっぱりこの人は全部思い出したんだ。
どんなことがあったのか、詳しい話を聞くことができるかもしれない。
勿論、本人に負担がかからない程度に話を聞きたいと思った。
「何故そう思われたのか、お尋ねしてもよろしいでしょうか?」
《……絵の話がまとまった帰り、歩道橋を歩いていると道いっぱいに広がって歩く学生たちとぶつかったんです。
相手は軽く頭を下げてそのまま行ってしまいましたが、俺はそのまま足を滑らせて…気づいたときにはトラックが迫っていました》
館長から語られたのは、恐ろしい事故の話だった。
彼の記憶がそこまでということは、恐らくそのまま車にはねられて亡くなったのだろう。
「たしかにあなたは亡くなられました。この列車は、最後のひとときを有意義に過ごしていただくためのものです。
大半の方が、あなたのように自分が死んだ自覚がないままご乗車されます。…何かできることはありませんか?」
《美術展がどうなったか知りたいです。俺には家族がいたわけではありませんから…》
この人は絵に一生を賭けてきたんだろう。
お仕事の話をしているとき、とても楽しそうにしていたから分かる。
「分かりました。それがお客様の願いなら、なんとか叶えてみせましょう」
宵月君はそう話すと、ポケットからパンフレットのようなものと新聞記事を取り出す。
《これは…》
「実は、あなたが亡くなられてから数日後にもう始まっているんです。連日大盛況のようですよ」
《そうですか、よかった。きっとスタッフが頑張ってくれたんだな…》
「あなたの頑張りが、他の従業員の方々にも伝わったのでしょう」
宵月君の丁寧な接し方に惚れ惚れしながら、失礼にならない程度にメモをとる。
《あの、お嬢さん》
「は、はい」
《丁寧に接してくださったお礼を受け取っていただけませんか?》
「私で、いいんですか?」
《あなたがいいんです》
それは、フェルメールのもうひとつの風景画のバッジ。
「『デルフトの眺望』…ありがとうございます。とても素敵です」
《一応購入もできるのですが、それはいくつか作ったプレ商品なんです》
非売品のものということは、フェルメール好きであろう館長にとって大切なものなのではないか。
受け取っていいのか戸惑っていると、その人は満足げに笑った。
《私が持っていても仕方ないので…。その子もあなたのような人が持っていてくれると、きっと幸せです》
列車が停まり、その人が立ちあがる。
一礼して扉の前まで見送った。
……あの人の心が、少しでも安らかであれますようにと願いながら。
《大丈夫です。ありがとうございます》
「先ほどお話されていたのを小耳に挟んでしまいまして…よろしければ、私にもお聞かせ願えませんか?」
《勿論。しかし、あまり気分のいい話ではないと思います》
館長は何も気にしていない様子で私を見つめている。
軽く頭を下げると、にこりと微笑んでくれた。
《おかしなことを訊いても構いませんか?》
「勿論です」
《俺は死んだんでしょうか?》
やっぱりこの人は全部思い出したんだ。
どんなことがあったのか、詳しい話を聞くことができるかもしれない。
勿論、本人に負担がかからない程度に話を聞きたいと思った。
「何故そう思われたのか、お尋ねしてもよろしいでしょうか?」
《……絵の話がまとまった帰り、歩道橋を歩いていると道いっぱいに広がって歩く学生たちとぶつかったんです。
相手は軽く頭を下げてそのまま行ってしまいましたが、俺はそのまま足を滑らせて…気づいたときにはトラックが迫っていました》
館長から語られたのは、恐ろしい事故の話だった。
彼の記憶がそこまでということは、恐らくそのまま車にはねられて亡くなったのだろう。
「たしかにあなたは亡くなられました。この列車は、最後のひとときを有意義に過ごしていただくためのものです。
大半の方が、あなたのように自分が死んだ自覚がないままご乗車されます。…何かできることはありませんか?」
《美術展がどうなったか知りたいです。俺には家族がいたわけではありませんから…》
この人は絵に一生を賭けてきたんだろう。
お仕事の話をしているとき、とても楽しそうにしていたから分かる。
「分かりました。それがお客様の願いなら、なんとか叶えてみせましょう」
宵月君はそう話すと、ポケットからパンフレットのようなものと新聞記事を取り出す。
《これは…》
「実は、あなたが亡くなられてから数日後にもう始まっているんです。連日大盛況のようですよ」
《そうですか、よかった。きっとスタッフが頑張ってくれたんだな…》
「あなたの頑張りが、他の従業員の方々にも伝わったのでしょう」
宵月君の丁寧な接し方に惚れ惚れしながら、失礼にならない程度にメモをとる。
《あの、お嬢さん》
「は、はい」
《丁寧に接してくださったお礼を受け取っていただけませんか?》
「私で、いいんですか?」
《あなたがいいんです》
それは、フェルメールのもうひとつの風景画のバッジ。
「『デルフトの眺望』…ありがとうございます。とても素敵です」
《一応購入もできるのですが、それはいくつか作ったプレ商品なんです》
非売品のものということは、フェルメール好きであろう館長にとって大切なものなのではないか。
受け取っていいのか戸惑っていると、その人は満足げに笑った。
《私が持っていても仕方ないので…。その子もあなたのような人が持っていてくれると、きっと幸せです》
列車が停まり、その人が立ちあがる。
一礼して扉の前まで見送った。
……あの人の心が、少しでも安らかであれますようにと願いながら。
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