皓皓、天翔ける

黒蝶

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第2章『初仕事』

第10話

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「あの、これ…」
「お客様の善意は無駄にしたらいけない。もしまだ動けるようなら、片づけを手伝ってくれる?」
「分かった」
シートの掃除やゴミ拾い、カバーの取り替え…色々なことを教えてもらっていると、背後から声をかけられた。
「あれ、もしかして君、新人さん?この前のお客様だよね?」
ふりかえって姿を確認すると、初めて乗ったときに切符を見に来た人だった。
「あの、えっと、」
「…すみません。彼女は人間相手だと緊張してしまうんです」
「そうだったんですね。ごめんね。…そうだ、リーダー。隣の車両の点検終わりました」
「わざわざ報告ありがとうございます」
「リーダーも終わったら休んでくださいね。…驚かせてごめん。またね、新人さん」
とても気さくな人なんだろうということは分かる。
それでも、どうしても緊張して上手く言葉が出てこなかった。
「矢田君は怖い人じゃない。そのうち慣れていけばいい」
「ということは…」
「あまりに話すのが苦手なら補助だけしてもらおうと思っていたけど、あのお客様は楽しそうだった。
俺は絵なんて詳しくないし、あんなふうに笑顔にできなかったと思う。…明日マントを支給する」
ここでは役にたてる、帰る場所がない私でもいてもいいと思ってもらえた…そのことが嬉しくて、涙腺が緩みそうになる。
「ただ、」
「もしかして、何か失礼なことをした?お客様を不愉快にさせたとか…」
「そうじゃない。…もっと自分中心で動いていい。相手の顔色をうかがいすぎ」
「そんなつもりはなかったんだけど…」
宵月君はふっと息を吐いて、ぶっきらぼうに言葉を投げた。
「君は多分、誰かを怒らせないように考えて過ごしてきたんだろうね。或いは…。
…まあ、それはさておき、びくびくしているのが見ていて分かる。自分勝手なのと自分を労るのは違う。もっと自分を労って」
そんなこと、言われたことがなかった。
正確に言えば前におばさんに言われたことがあったかもしれない。
「…どうすればできるの?」
「慣れるしかない。…正直、俺にも分からないのかもしれない」
苦笑している宵月君は、いつも学校で見かけるときとはまた別の表情をしていた。
大きなトンネルにさしかかったとき、また突然の眠気に襲われる。
「…ねえ、宵月君。下の名前で呼んでもいい?」
「それは、学校でってこと?」
「ううん。学校では、おかしな噂に、なるかもしれないから…」
「──」
何か話していた気がするけど、言葉が聞き取れない。
掃除が全部終わっていたから今回は迷惑にならない…そのことに安心しながら、座席に勢いよく座りこむ。
まだ言葉をかけられていた気がしたけど、そのまま意識が吸いこまれていった。
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