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第4章『暴走』
閑話『復讐』
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空に月が浮かぶ頃、列車に向かう前に普段は通らない道を歩いていた。
「すみません。こちらの店に蘭さんという方はいらっしゃいますか?」
「ああ、蘭ちゃんね。呼んでくるから少し待ってて」
黒服の男性が蝶のように大人しく座っていた女性に声をかけている。
女の方はこちらにゆらゆらゆっくり歩いてきた。
だが俺は、その女は蝶などではなく猛毒を持った蜘蛛だということをよく知っている。
「こんばんは。初めての方ですか?」
「すみません。今日は仕事で来たんです。こちらの手紙を渡してほしいと頼まれまして…」
「ありがとうございます。誰からかな?」
宛名のない手紙を女は警戒もせず開ける。
その中に書かれていた言葉の羅列を見た瞬間、目を見開きその場に倒れた。
「え、蘭ちゃん!?」
「……たしかにお渡ししました」
それだけ告げてその場を立ち去る。
騒ぎになっているようだが、ここに長居する必要はない。
【蘭ちゃん
ご家族を困らせてはいけない。
生きている人間を勝手に殺してはいけない。
相手の心につけいって、騙してはいけない。
隙があった俺にもいけないところはあるけど、絶対に許さない。
最後に地獄行きの切符を送りつけてやる。おまえたちは終わりだ】
男性は言った。
怪しいと思って集めていた証拠を友人に預けていると。
そしてもう1ヶ所、今夜は訪ねなければならない場所がある。
「こんにちは。こちらに吉田さんという方はいらっしゃいますか?」
「俺ですけど」
「あなた宛に手紙が届いています」
宛先を見て、目の前の男性はとても驚いた顔をしていた。
「中島…」
彼は震える手で封筒を開ける。
【吉田
最後まで迷惑かけてごめん。
実は俺の遺産の受取人、おまえにしてあるんだ。俺に家族がいないこと、知ってるだろ?近いうちに弁護士が行くはずだから、今までの礼として受け取ってほしい。
妹さんの学費や生活費が必要なのも分かるけど、少しは自分のために使え。おふくろさんの手術代も払いきれるはずだ。
おまえのおかげでいい人生だったよ。ありがとう。たったひとりの親友に、俺から最後のプレゼントだ。
追伸:預け物の扱いはおまえに任せる。俺としては全部捨てて忘れてほしいところだけどな】
彼は最後まで遺産を誰に渡すか悩んでいたらしい。
相手がいなければ国庫に入れられてしまう。
それなら寄付しようかとも考えていたとき、吉田さんの母親が病に倒れたそうだ。
「もし自分が死んだら、通い続けるか迷っている通信制大学を諦めないでほしい。夢を掴んでほしいと仰っていました」
「……俺、中島のこと護れなかったんです。手を伸ばしたけど、掴みきれなくて…。そんな俺に、受け取る資格なんて……」
「彼がそれを望んでいます。あなたがいらないと突っぱねてしまえば、中島さんは心を痛めるでしょう」
自分のことより他人のことを考える、珍しい人間だった。
そんな彼のことだ、最後まで親友を思いやっていたのだろう。
「それでは、私はこれで失礼いたします」
一礼して去ろうとすると、定時制高校の制服を着た少女が吉田さんの後ろから出てくる。
その耳には補聴器がつけられていて、会話をばっちり聞かれてしまったようだった。
だが、そんなことはどうでもいい。
あとは当人たちが決めることだ。
いつもどおり駅に向かうと、また後輩に話しかけられて困っている星影氷空が目に入る。
三日月の夜、すぐに着替えて駆け寄った。
「すみません。こちらの店に蘭さんという方はいらっしゃいますか?」
「ああ、蘭ちゃんね。呼んでくるから少し待ってて」
黒服の男性が蝶のように大人しく座っていた女性に声をかけている。
女の方はこちらにゆらゆらゆっくり歩いてきた。
だが俺は、その女は蝶などではなく猛毒を持った蜘蛛だということをよく知っている。
「こんばんは。初めての方ですか?」
「すみません。今日は仕事で来たんです。こちらの手紙を渡してほしいと頼まれまして…」
「ありがとうございます。誰からかな?」
宛名のない手紙を女は警戒もせず開ける。
その中に書かれていた言葉の羅列を見た瞬間、目を見開きその場に倒れた。
「え、蘭ちゃん!?」
「……たしかにお渡ししました」
それだけ告げてその場を立ち去る。
騒ぎになっているようだが、ここに長居する必要はない。
【蘭ちゃん
ご家族を困らせてはいけない。
生きている人間を勝手に殺してはいけない。
相手の心につけいって、騙してはいけない。
隙があった俺にもいけないところはあるけど、絶対に許さない。
最後に地獄行きの切符を送りつけてやる。おまえたちは終わりだ】
男性は言った。
怪しいと思って集めていた証拠を友人に預けていると。
そしてもう1ヶ所、今夜は訪ねなければならない場所がある。
「こんにちは。こちらに吉田さんという方はいらっしゃいますか?」
「俺ですけど」
「あなた宛に手紙が届いています」
宛先を見て、目の前の男性はとても驚いた顔をしていた。
「中島…」
彼は震える手で封筒を開ける。
【吉田
最後まで迷惑かけてごめん。
実は俺の遺産の受取人、おまえにしてあるんだ。俺に家族がいないこと、知ってるだろ?近いうちに弁護士が行くはずだから、今までの礼として受け取ってほしい。
妹さんの学費や生活費が必要なのも分かるけど、少しは自分のために使え。おふくろさんの手術代も払いきれるはずだ。
おまえのおかげでいい人生だったよ。ありがとう。たったひとりの親友に、俺から最後のプレゼントだ。
追伸:預け物の扱いはおまえに任せる。俺としては全部捨てて忘れてほしいところだけどな】
彼は最後まで遺産を誰に渡すか悩んでいたらしい。
相手がいなければ国庫に入れられてしまう。
それなら寄付しようかとも考えていたとき、吉田さんの母親が病に倒れたそうだ。
「もし自分が死んだら、通い続けるか迷っている通信制大学を諦めないでほしい。夢を掴んでほしいと仰っていました」
「……俺、中島のこと護れなかったんです。手を伸ばしたけど、掴みきれなくて…。そんな俺に、受け取る資格なんて……」
「彼がそれを望んでいます。あなたがいらないと突っぱねてしまえば、中島さんは心を痛めるでしょう」
自分のことより他人のことを考える、珍しい人間だった。
そんな彼のことだ、最後まで親友を思いやっていたのだろう。
「それでは、私はこれで失礼いたします」
一礼して去ろうとすると、定時制高校の制服を着た少女が吉田さんの後ろから出てくる。
その耳には補聴器がつけられていて、会話をばっちり聞かれてしまったようだった。
だが、そんなことはどうでもいい。
あとは当人たちが決めることだ。
いつもどおり駅に向かうと、また後輩に話しかけられて困っている星影氷空が目に入る。
三日月の夜、すぐに着替えて駆け寄った。
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