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第5章『隠しごと』
第23話
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「あれ、今日はリーダーと一緒じゃないの?」
環境にだいぶ慣れてきて列車を待っていると、いつも声をかけてくれる先輩さんに声をかけられる。
「あ、えっと…こんばんは」
「こんばんは!そういえば、まだ名乗ってなかったね。僕は矢田ノア。よろしく」
「ほ、星影氷空です」
「あの字でそらって読むんだ!?綺麗な名前だね」
「あ、ありがとうございます」
私が生まれてすぐ亡くなってしまった祖母がつけてくれたものらしいけど、そんなふうに言われたのは初めてだ。
「氷空ちゃんって呼んでもいい?」
「よ、呼びやすいように…」
「ごめんね。僕、友だちの作り方がよく分かってなくて…誰にでもぐいぐいいっちゃうんだ」
「いえ。私も、その…緊張、してしまって」
やっぱり氷雨君以外の人を相手にすると、心臓がばくばくして上手く言葉が出てこない。
「そうだ!リーダーって普段どんな感じなの?僕たちと違って、あの人は人間社会にも溶けこめるわけだし…」
「どういう、ことですか?」
「僕は色々あって車掌になったんだけど、君みたいに生身の人間じゃない。
リーダーは生身ではあるけど、あの人は──」
「お喋りなら、私も仲間に入れていただけませんか?」
はっと顔をあげると、いつの間に来たのか氷雨君が後ろから肩に手を回してきた。
「あ、リーダー!お疲れ様です」
「お疲れ様です。随分楽しそうでしたね?」
「えっと…すみません!氷空ちゃん、またね!」
私の後ろで氷雨君がどんな顔をしているか分からないけど、矢田さんが青ざめたということは怒っているのかもしれない。
「あ、あの…」
「今回のお客様の資料。目を通しておいて」
「分かった」
その人の死因は事故死と書かれていたけど、それ以上の詳しいデータは何もない。
強いて言うなら、好きな食べ物の頁に幼馴染が作ったお菓子と書かれてあることくらいだ。
「あの、氷雨君。好きな食べ物がこういう場合ってどうすればいいの?」
「記憶から再現する方法がある。ついてきて」
駅まで来た列車に乗りこみ、いつもどおり氷雨君についていく。
「これを使うんだ」
「フードプロセッサー…?」
「そんな感じ。クッキーを入れて、その人の話を聞きながら回してみて。記憶がこめられることで完成するから」
よく分からないまま頷いて、交通事故に遭った人たちが乗っている車両に向かう。
氷雨君はいつもどおり近くで別のお客様の相手をしていて、私は資料に書かれていた男子学生に声をかけた。
「こんばんは、お客様」
《ああ…どうも》
「何か必要なものがございましたらお声がけください」
《飲み物ってなんでもありますか?》
「は、はい」
《じゃあ、玄米茶の冷たいやつ》
「かしこまりました」
やっぱり亡くなった時の記憶がないのか、ぼんやりした様子で腰掛けている。
作っている間話しかけようとしたけど、何かを考えこんでいる様子に上手く声をかけられなかった。
環境にだいぶ慣れてきて列車を待っていると、いつも声をかけてくれる先輩さんに声をかけられる。
「あ、えっと…こんばんは」
「こんばんは!そういえば、まだ名乗ってなかったね。僕は矢田ノア。よろしく」
「ほ、星影氷空です」
「あの字でそらって読むんだ!?綺麗な名前だね」
「あ、ありがとうございます」
私が生まれてすぐ亡くなってしまった祖母がつけてくれたものらしいけど、そんなふうに言われたのは初めてだ。
「氷空ちゃんって呼んでもいい?」
「よ、呼びやすいように…」
「ごめんね。僕、友だちの作り方がよく分かってなくて…誰にでもぐいぐいいっちゃうんだ」
「いえ。私も、その…緊張、してしまって」
やっぱり氷雨君以外の人を相手にすると、心臓がばくばくして上手く言葉が出てこない。
「そうだ!リーダーって普段どんな感じなの?僕たちと違って、あの人は人間社会にも溶けこめるわけだし…」
「どういう、ことですか?」
「僕は色々あって車掌になったんだけど、君みたいに生身の人間じゃない。
リーダーは生身ではあるけど、あの人は──」
「お喋りなら、私も仲間に入れていただけませんか?」
はっと顔をあげると、いつの間に来たのか氷雨君が後ろから肩に手を回してきた。
「あ、リーダー!お疲れ様です」
「お疲れ様です。随分楽しそうでしたね?」
「えっと…すみません!氷空ちゃん、またね!」
私の後ろで氷雨君がどんな顔をしているか分からないけど、矢田さんが青ざめたということは怒っているのかもしれない。
「あ、あの…」
「今回のお客様の資料。目を通しておいて」
「分かった」
その人の死因は事故死と書かれていたけど、それ以上の詳しいデータは何もない。
強いて言うなら、好きな食べ物の頁に幼馴染が作ったお菓子と書かれてあることくらいだ。
「あの、氷雨君。好きな食べ物がこういう場合ってどうすればいいの?」
「記憶から再現する方法がある。ついてきて」
駅まで来た列車に乗りこみ、いつもどおり氷雨君についていく。
「これを使うんだ」
「フードプロセッサー…?」
「そんな感じ。クッキーを入れて、その人の話を聞きながら回してみて。記憶がこめられることで完成するから」
よく分からないまま頷いて、交通事故に遭った人たちが乗っている車両に向かう。
氷雨君はいつもどおり近くで別のお客様の相手をしていて、私は資料に書かれていた男子学生に声をかけた。
「こんばんは、お客様」
《ああ…どうも》
「何か必要なものがございましたらお声がけください」
《飲み物ってなんでもありますか?》
「は、はい」
《じゃあ、玄米茶の冷たいやつ》
「かしこまりました」
やっぱり亡くなった時の記憶がないのか、ぼんやりした様子で腰掛けている。
作っている間話しかけようとしたけど、何かを考えこんでいる様子に上手く声をかけられなかった。
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