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第5章『隠しごと』
閑話『秘匿』
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午前中で学校を早退できて助かった。
もし研修旅行に行くなら午後から説明会に出席しなければならなかったが、参加しない俺には関係ない。
住所を元に家を探していたが、その間に彼女が話していたことを思い出した。
『お兄さんが大学みたいな建物近くのお店で、何か買っていたみたいなんだ。多分プレゼントだと思うんだけど…』
念のためもう封鎖されていない事故現場を訪れてみると、丁度バイクが転がっていたらしいあたりにへこんだ小箱があった。
「…これか」
なんとか土を拭き取ることはできたが、渡せるかどうかは運次第だ。
「こんにちは。渡辺広人さんですね?」
「そうだけど。あんた誰ですか?」
怪訝そうな表情には軽快の色が滲んでいる。
「手紙を届けに参りました。お兄さんの直人さんから預かったものです」
「兄貴から…?」
「こちらの箱もお届けに参りました」
少しへこんだ箱には、『ヒロへ』と書かれたメッセージカードのようなものがついている。
渡辺広人は震える手で手紙を開けた。
【ヒロへ
手紙なんて書いたことないから、これでいいのか分からない。
ひとつ言えるのは、おまえのせいじゃないってことだ。俺のことは気にするな。
それから、上手く言えなくてごめん。なんで誰よりも好きだって思ってるのに言わないんだろうって、見ててちょっとイラっとしたんだ。
想いを伝えられるチャンスがあるんだから諦めるな。おまえのいいところは、その諦めの悪さなんだから。
俺はあんまりいい兄じゃなかったけど、俺の弟でいてくれてありがとう】
「兄貴、ごめん」
箱の中身は組木パズルのようだった。
「俺のせいで死んだのに、こんなもんまで残してくれてたなんて…。きっと解いたらなんか入ってる仕掛けになってるんだろうな。
…恨み言のひとつやふたつ書いてくれた方が楽だった」
「あなたのお兄さんは、きっとあなたを恨んでいません。あなたのせいだと責めるような方なら、きっと手紙にありがとうなんて書きませんから」
「そっか。それもそうっすね。いい兄貴だったからな…」
涙を流す弟に一礼して、次の配達先へ向かう。
「こんにちは。川田明菜さんはご在宅でしょうか?」
「私ですけど…」
「お届けものです」
「え、ナオ君から!?」
急いで封を切った直後、彼女の瞳から涙が溢れ出した。
【明菜
ヒロを頼む。おまえがあいつのことが好きなのはずっと前から知ってるんだ。ふたりがすれ違ったまま終わるのは辛い。
幼馴染として、一旦あいつとちゃんと話をしてほしいってお願いするよ。ふたりが幸せでいられるように、ずっと祈ってる】
「ナオ君…」
「彼はきっと、あなた方の幸せを誰よりも強く願っています。
もし何かお願い事が書かれていたなら、どうか叶えてあげてください」
「あの、」
「それでは、私はこれで失礼します」
渡辺直人は最後まで自らの恋心を隠すと決めた。
死者に敬意を払わなければ、この仕事は続けられない。
今回の手紙の内容は、まるで死者が書いたものだと突っこまれやすいだろう。
流石に答えるわけにはいかないので、足早にその場を離れる。
ひとりがいなくなっても、3人の絆は変わらない。
……そう信じたいと思うのはエゴだろうか。
もし研修旅行に行くなら午後から説明会に出席しなければならなかったが、参加しない俺には関係ない。
住所を元に家を探していたが、その間に彼女が話していたことを思い出した。
『お兄さんが大学みたいな建物近くのお店で、何か買っていたみたいなんだ。多分プレゼントだと思うんだけど…』
念のためもう封鎖されていない事故現場を訪れてみると、丁度バイクが転がっていたらしいあたりにへこんだ小箱があった。
「…これか」
なんとか土を拭き取ることはできたが、渡せるかどうかは運次第だ。
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「そうだけど。あんた誰ですか?」
怪訝そうな表情には軽快の色が滲んでいる。
「手紙を届けに参りました。お兄さんの直人さんから預かったものです」
「兄貴から…?」
「こちらの箱もお届けに参りました」
少しへこんだ箱には、『ヒロへ』と書かれたメッセージカードのようなものがついている。
渡辺広人は震える手で手紙を開けた。
【ヒロへ
手紙なんて書いたことないから、これでいいのか分からない。
ひとつ言えるのは、おまえのせいじゃないってことだ。俺のことは気にするな。
それから、上手く言えなくてごめん。なんで誰よりも好きだって思ってるのに言わないんだろうって、見ててちょっとイラっとしたんだ。
想いを伝えられるチャンスがあるんだから諦めるな。おまえのいいところは、その諦めの悪さなんだから。
俺はあんまりいい兄じゃなかったけど、俺の弟でいてくれてありがとう】
「兄貴、ごめん」
箱の中身は組木パズルのようだった。
「俺のせいで死んだのに、こんなもんまで残してくれてたなんて…。きっと解いたらなんか入ってる仕掛けになってるんだろうな。
…恨み言のひとつやふたつ書いてくれた方が楽だった」
「あなたのお兄さんは、きっとあなたを恨んでいません。あなたのせいだと責めるような方なら、きっと手紙にありがとうなんて書きませんから」
「そっか。それもそうっすね。いい兄貴だったからな…」
涙を流す弟に一礼して、次の配達先へ向かう。
「こんにちは。川田明菜さんはご在宅でしょうか?」
「私ですけど…」
「お届けものです」
「え、ナオ君から!?」
急いで封を切った直後、彼女の瞳から涙が溢れ出した。
【明菜
ヒロを頼む。おまえがあいつのことが好きなのはずっと前から知ってるんだ。ふたりがすれ違ったまま終わるのは辛い。
幼馴染として、一旦あいつとちゃんと話をしてほしいってお願いするよ。ふたりが幸せでいられるように、ずっと祈ってる】
「ナオ君…」
「彼はきっと、あなた方の幸せを誰よりも強く願っています。
もし何かお願い事が書かれていたなら、どうか叶えてあげてください」
「あの、」
「それでは、私はこれで失礼します」
渡辺直人は最後まで自らの恋心を隠すと決めた。
死者に敬意を払わなければ、この仕事は続けられない。
今回の手紙の内容は、まるで死者が書いたものだと突っこまれやすいだろう。
流石に答えるわけにはいかないので、足早にその場を離れる。
ひとりがいなくなっても、3人の絆は変わらない。
……そう信じたいと思うのはエゴだろうか。
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