皓皓、天翔ける

黒蝶

文字の大きさ
上 下
38 / 236
第6章『護り方』

第32話

しおりを挟む
そんな事ができるなんて初耳だ。
「こちらの鏡を使えば、あなたの大切な相手の今を見ることができるでしょう」
《本当ですか?もし本当だったとしても、使っていいんですか…?》
「勿論です。お客様の旅をよりよいものにするのが私たちの仕事ですから」
氷雨君は笑顔でそう話して、鏡を持つよう促す。
言われるまま女子高生が持った瞬間、どこかの病院から出てくる少女が映し出された。
《みゆ、怪我してないんだ。よかった…》

『なんで死んじゃったの?独りにしないって言ったのに……』
『申し訳ない』
『あなたたちが麻友を殺したんです!麻友を返してください。私には麻友しかいなかったのに!』
『本当に、申し訳ありません。…ご遺体は司法解剖します』
警官が去った後、少女が小さく呟く。
『……私が死ねばよかったんだ。あいつの狙いは私だったんだから』
泣き崩れる少女の首元できらりと何かが光る。
それは女子高生がつけているものと同じ型の指輪だった。


「……以上になります」
《みゆ…深雪は無事だってことですよね?》
「少し擦りむいてはいたようですが、大きな怪我はないようです。ただ、心の傷はかなり深いでしょう」
《彼女なら大丈夫です。…私がいなくても、周りの人たちが愛してくれるはずだから》
少し寂しげな表情で呟かれた言葉には、まだ伝えきれていない想いが隠れているような気がする。
「あ、あの…もしよければ、手紙を書きませんか?」
《届かないのを分かっていて書くのは、ちょっと辛いかも。…すみません》
「と、届かないかどうかは、やってみないと分からないと思うんです。
多分あの人は、あなたのことしか考えていないから…それから、あなたの想いが届くように、私もできる限りのことをやります」
こんなの無責任だ。自分でも分かっている。
それでもやっぱり、何も声をかけずにはいられなかった。
ふたりとももやもやしたものを抱えることになるなら、いっそ書き出してしまった方がいいんじゃないだろうか。
《…私、国語苦手なんです。文章も下手だし、よく分からない言葉を書き連ねてしまいそうで…。
もし仮に届いたとしても、みゆを傷つけるのが怖いんです》
「時には相手を傷つける覚悟で想いをぶつけることも必要です。少なくとも、私はそう感じています。
私からもお願いします。…少しでも構いませんので、手紙を書いてみていただけませんか?」
氷雨君の言葉に、女子高生はぱっと顔をあげる。
その瞳には決意の色が滲んでいた。
《届かなくてもいい。だけどやっぱり、伝えたい思いがある…矛盾してるけど、そう思うんです。手紙、書いてみます》
「一式、すぐご用意いたします」
女子高生と言葉を選びながら、少しずつ手紙を仕上げていく。
彼女の表情はだんだん晴れやかなものになっていった。
しおりを挟む

処理中です...