皓皓、天翔ける

黒蝶

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第6章『護り方』

第33話

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「ふ、封筒はどれになさいますか?」
《そっちの花柄のものがいいです。…みゆが好きな花に似ているから》
「かしこまりました」
列車が到着する前になんとか書き終わり、女子高生はほっとしているようだった。
「鈴蘭ですね。花言葉は確か、『戻ってきた幸福』…きっとおふたりに幸福が訪れます」
《そういう花言葉があるんですね。知らなかったな…。車掌さん、何から何までありがとうございます》
女子高生の笑顔がぱっと咲きほこる。
楽しそうに微笑んでいる彼女の姿に少し安心した。
「わ、私はただ、自分にできることをしただけなので…」
《私にとっては充分すぎるおもてなしでした。おかげで列車の中でも楽しく過ごせましたし…自分の気持ちにも整理がつけられた。
本当にありがとうございました》
列車を降りる前、彼女はにこりと微笑んで手をこちらに差し出した。
「こちらこそ、ありがとうございました」
その手を握りかえして、駅員さんと一緒に消えていく姿を見守る。
ただ、生きている少女の苦しみはどうなるんだろう。
「お疲れ」
「あ、あの…今日の接客、あれでよかったのかな」
「何か引っかかることでもあった?」
「ちゃんとお客様の心に寄り添えたか不安で…」
女子高生は笑っていたけど、もしかしたら無理をさせていたんじゃないかと思ってしまう。
「…接することに正解はない」
「え?」
「明らかに失礼な態度だったならそれはおかしいって思うけど、相手の話に耳を傾けて一緒に悩む…そういうやり方があっていいんじゃない?」
はっきり褒められたわけじゃないけど、嬉しくて心がぽかぽかになる。
いつもみたいに目眩がしないので、少しずつ車両の片づけをしていく。
血溜まりができている席もあって吃驚したけど、毎日それだけの人がこの列車に乗るんだと思うと切なくなった。
「先輩、終わりました」
「ご苦労さまです。幸福の監獄の掃除は私がしますので、あとは隣の車両の手伝いをお願いできますか?」
「分かりました。…氷空ちゃんも、お疲れ!」
「お、お疲れ様です」
手を出されたのでそっとハイタッチすると、太陽みたいに眩しい笑顔を見せてから隣の車両へ行ってしまった。
「ごめん。悪いやつではないけど、誰に対してもあのノリで来るんだ」
「ちょっと吃驚したけど、嫌じゃなかった」
「…そう」
「そういえば、幸福の監獄って…」
「暴れてた人が乗ってた部屋のこと。列車が駅につくまで歩き回れないからそう呼ばれてる」
「あの、私も──」
手伝わせてほしいとお願いしようとしたけど、突然体が重くなる。
その場にしゃがみこんだ私の体を、掃除したふかふかの椅子に横にならせてくれた。
「今は休んだ方がいい。人間は少しでも寝ておかないと大変なことになるから」
その言葉の意味を理解することなく、意識が深く落ちていく。
氷雨君を知りたいのに、どうしても体が重くて瞼をおろした。
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