皓皓、天翔ける

黒蝶

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第8章『整理』

閑話『予測どおりの結末』

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星影氷空を見送り、そのまま自分の仕事に戻る。
「先輩、家まで送った方がよかったんじゃないですか?」
「本人が望んでいないことをするわけにはいきませんから」
そう言いつつ、本当は彼女から一定の距離をとって接しているだけだ。
一緒にいる時間が多いからか、情がうつってしまっている気がする。
午前中は授業を休み、手紙を届けに向かった。
「こんにちは。山崎蒼汰さんですか?」
「そうですが……」
真っ黒な服に身を包んだ男性が、寂しげに空を見上げる。
「あなた宛に手紙が届いています」
「ああ、そうですか…。ありがとうございます」
列車のイラストが散りばめられた封筒を開けた彼は、後悔の色が滲んだ瞳を揺らす。


【おにいちゃんへ

たくさんおはなしを聞かせてくれてありがとう。
休みの日にいっぱいあそべて楽しかったよ。
これからもやさしいお兄ちゃんでいてね。大好きだよ】


「なんだよ、これ…なんなんだ……」
一緒に入っていた画用紙の絵を見て本人だと確信したらしく、男性は俯いたまま動かなくなる。
「あなたの弟さんからです」
「佑哉はもういない。だから今こういう服装なわけだし」
「私はたしかに山崎佑哉さんから預かりました。…あなたが笑って過ごすことを願っていると話していましたよ」
「これが弟からの手紙だったとしても、もう俺には何も……」
「あなたの幸せを願いながら、彼は天国で待っているつもりなんだと思います。
どうかこの理不尽だらけの世界で幸福を掴んでください。それが佑哉さんの願いですから」
嘘は言っていない。
だが、これ以上どんな言葉をかけても山崎蒼汰の心を癒やすことはできないだろう。
「それでは、私はこれで失礼します」
腕を掴まれそうになったのを避け、一礼してすぐにその場を後にする。
山崎佑哉が死ぬことは知っていた。
先日、手紙の届け先で偶然ぶつかったときから決まっていたことだ。
彼の寿命は他の何かに絶ち切られたような痕跡が視えたが、それを指摘したところで何も変わらなかっただろう。
「宵月君、なんで今日は午前中いなかったの?」
「所用があった」
「授業に出られないほど大事な用ってなんだったんだ?」
「……言えない」
何故か周囲に集まってくる人間たちに曖昧な返答を繰り返しながら机の中を探ると、1時限目からのノートのコピーや連絡事項が書かれた紙の束が入っていた。
間違いなく星影氷空の字だ。
他の人間から距離をとっている彼女に今声をかけることはできない。
心に降り積もるぬくもりから目を逸らし、午後からの授業をしっかり受けた。
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