皓皓、天翔ける

黒蝶

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第9章『送人』

第47話

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「氷空ちゃん」
「こんにちは、おばさん。体調はどう?」
「今日は体が軽いの。心配してくれてありがとう」
車椅子を押しながら、施設内の中庭をまわらせてもらう。
今おばさんがどんな状態なのか、詳しいことは教えてもらえない。
担当のお医者さんや看護師さんに聞いても、大丈夫とか元気だという言葉しか返ってこなかった。
「氷空ちゃん、やっぱり最近楽しいことを見つけたんじゃない?」
「どうしてそう思ったの?」
「楽しそうに笑っていることが増えたからかな。ふとしたときに微笑んでいるのを見るとほっとするわ」
「え?」
無自覚だった。
笑っているつもりなんてなかったけど、おばさんを安心させられたならそれでいい。
「私、笑ってた?」
「穏やかな表情だったわ。そのままでいてね。笑顔は幸せの素だから」
頷くと同時に、看護師さんから面会時間の終わりを告げられる。
おばさんと別れて夜の町を徘徊していると、見たことがないゲームセンターを見つけてすぐ入った。
コンビニに行ったり、夜のカフェに行ったり…静かな街を歩くのは嫌じゃない。
氷雨君から今夜は休むように言われているので、久しぶりに街を観察した。
「お姉さん、時間あるなら俺らと、」
「お断りします」
「いいじゃんか。ちょっとだけだし…」
《イいジャんか、私モアソびたいシ》
「おふたりで楽しんでください。失礼します」
なんとなくもうひとりの様子がおかしい気がして、小走りでその場を離れる。
だけど、相手が諦めずに追いかけてきた。
もうすぐ開いているお店に入れるというところで転んでしまう。
「大丈夫だから逃げないでよ。ね?」
《さあ、さア、サア!》
一瞬、もうどうでもいいと思った。
だけど私にはやらないといけないことがある。
目を閉じた瞬間、誰かの気配を感じた直後に低い声が耳に届く。
「この子に何をしようとしてるの?」
「誰だよ、あんたには関係な──」
「……へえ。そんなこと言うんだ」
大きい音がして目を開けると、いるはずがない人が目の前に立っていた。
相手が去っていくのを確認して、手を引っ張って立たせてくれる。
「大丈夫?」
「ひ、さめ、く……」
「取り敢えず来て」
歩こうとしたけど足に力が入らなくて、そのまま崩れ落ちてしまう。
もう一度立ち上がろうとしたところでふわりと体が浮いた。
「無理しなくていい」
「あ、あの、」
「大丈夫だから」
そのまま近くの建物まで連れて行かれて、ふかふかのソファーにおろしてくれる。
「手当てするからそのまま待ってて」
新聞紙や資料のようなもの、星図がばらばらに置かれた場所で言われたとおりにする。
丁寧な処置を施してくれて、落ち着くまで待ってくれた。
「ごめんなさい」
「別に謝らなくていい。悪いのは絡んだ方だから」
「ここ、氷雨君の家なの?」
「…一応そういうことになる」
ほとんどものがない場所で、なんだか彼らしい。
部屋の中、本棚に飾られているオルゴールに目がいく。
「大切なものなんだね」
「…まあ、一応。もし眠れないようなら仕事の話をしておこう」
「うん。お願いします」
オルゴールを指さしたとき、氷雨君の表情が苦しげに見えたのは気の所為だろうか。
少しでいいから彼のことを詳しく知りたいけど、その気持ちを抑えて送り人の話に集中した。
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