皓皓、天翔ける

黒蝶

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第10章『願い』

閑話『届かなかった声』

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「現場、見に行くんですか?」
「はい。一応見ておこうと思いまして…」
行き先も告げず、後輩にそれだけ話しておく。
火災現場を見るのは初めてではないが、その地殻で葬儀が行われているのを奇妙に感じる。
ここに集まっている人間たちは、桂木遥の死をどう感じているのだろうか。
全てが終わった後、火葬場へ運ばれていった桂木遥の遺体を追いかけることもせず立ち止まっていた母親に女性が掴みかかった。
「あなたのせいで桂木遥さんは死んだのに、何故そんな淡々としていられるの!?」
「はあ?どなたが存じ上げませんけど、いきなり私のせいってなに?」
「あの日、蔵に閉じこめたのはあなたでしょう?遥さんからずっと相談を受けていました。
しかし、家庭訪問にも電話にも出てもらえない…。私にも落ち度はありますが、あなたそれでも母親ですか!?自分の子どもが可愛くないんですか!?」
たしか資料に、大人への相談を試みたが失敗したと載っていた。
彼女が相談された相手だとすれば納得がいく。
「私が殺したとでも言いたいの?そんな証拠──」
瞬間、母親の顔がひきつる。
その視線の先には、恨みの念だけが残った人形が立っていた。
「あの気味の悪い人形、どうして!?」
人形の付喪神のうち、少女の側にいたいという思いと傷つけた相手に対する憎しみがばらばらに存在している。
憎しみの方が人形に残っている可能性があったので回収できればと思っていたが、どうやら遅かったようだ。
「い、いや!私は悪くない、私は悪くない!」
人形の目は血走り、口から血反吐を吐いている。
それを見た女は気絶した。
その体を支えたのは、その場にいた警官だ。
「あなたを桂木遥さん虐待容疑で逮捕します」
「なんで…なんでもっと早く動いてくれなかったんですか?」
「…とにかく、私たちは彼女を連れていきますので」
「あんたたちも私と同罪だ!遥さんに謝れ!謝れよ……」
泣き崩れる女性にハンカチを渡す。
「あなたは、遥さんのことを救おうとしたんですね」
「結局、手が届かなかった。意味なかった……」
【ごめんなさい氷雨】
あの日のことがフラッシュバックして、目の前の女性と自分を重ね合わせてしまう。
一度散ってしまった命はもう戻ってこない。
今の彼女にどんな言葉をかけても無意味だろう。
憎悪の表情を向けたまま立っている人形を拾い、人混みに紛れてその場を離れる。
「憎む気持ちは分かりますが、彼女を悲しませてはいけません」
少女の言葉も、人形の声も、女性の訴えも、あのときの俺のように届かなかった。
心にずっしり重いものを感じながら、すぐ列車へ向かう。
空にはまだ日がのぼっていて、発車まで時間がありそうだった。
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