皓皓、天翔ける

黒蝶

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第11章『迷人』

第55話

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「こんにちは、おばさん」
「氷空ちゃん、今日も来てくれたの?」
「うん。近くまで来たから、ちょっとだけ様子を見に…。迷惑だった?」
「ううん。あなたが優しい子で嬉しいけど、あなたの青春を邪魔していないか不安になっただけよ」
おばさんはやっぱり優しい人だ。
だけど、私にはここしか居場所がない。
もしおばさんがいなくなってしまったら、本当に独りぼっちだ。
「氷空ちゃん、その怪我どうしたの?」
「あ、えっと…ちょっと転んだ」
「そう。ならいいけど…」
「心配しないで。あの人は今恋人に夢中だから私に気づかない」
おばさんは何か言いたげな顔をしていたけど、看護師さんたちがやってきたのを見て時間がないことを自覚する。
急がないと列車に間に合わない。
自転車を走らせると、まだ何人か着替えている人がいた。
「こんばんは、氷空ちゃん」
「こ、こんばんは…」
やっぱり緊張してしまう私に、矢田さんはいつもどおり明るく接してくれる。
「この前はお手柄だったらしいね。人形の怨念を取り除いたとか」
「そんな大したことは、してません。ただ、お人形さんと話をしただけで…」
「そんなに謙遜することないと思うけどな…。だって、実際すごいことなんだから」
矢田さんの笑顔にほっこりする。
さっきまでぴんと張りつめていた緊張の糸が、少しだけ緩んだ気がした。
「あれ、リーダー?もう来てたんですね」
「はい。今夜の準備をしていたので」
一瞬氷雨君に冷たい視線を向けられた気がするけど、気のせいだろうか。
「それでは行きましょうか」
いつものようにお客様のデータを頭にたたきこんで、ゆっくり列車に乗る。
お客さまのデータは見たものの、今夜は特に指示されているわけではないので一先ずデッキに向かった。
「…よかった」
詳しいことは知らないけど、人形に襲われた日の後片づけが大変だったらしい。
髪の毛で削られた車両を直すのに時間がかかったと聞いている。
今立っている場所には傷ひとつ残っていなかった。
《あの、すみません…》
「は、はい。どうかされましたか?」
《乗る列車を間違えたみたいなんですけど、どこ行きですか?》
以前にも似たような会話をしたような気がする。
ただ、今夜の私は車掌側だ。
それに、耳に届く声の雰囲気が生きているとも死んでいるとも言い難いものだった。
「えっと…。お客様の話を聞かせていただけますか?飲み物をお持ちしますので…」
《ありがとうございます!ここで待たせてもらいますね》
にっこり笑った顔がとても綺麗な人で、心まで透き通っているようだ。
迷子になっているならなんとかしたいけど、一先ず話を聞かせてもらおう。
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