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第12章『深愛』
第63話
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《俺が手紙なんて…。上手く書ける自信がありません》
男性が不安を口にしたとき、氷雨君がにこやかに話しかける。
「伝えたい言葉に上手いも下手もありません。折角ですし、想いが届く可能性もありますのでやってみませんか?」
《届く可能性…》
その言葉に背中を押されたのか、男性は意を決したように顔を上げる。
《やります。少しでも可能性があるなら、ちゃんと言葉にして書いておきたい》
「かしこまりました。彼女にレターセット一式持ってきていただきますので、少々お待ちください」
氷雨君の視線は柔らかいもので、すぐに沢山の種類の便箋と封筒が入ったケースを持ってくる。
男性は悩みながらもなんとか選んだようだった。
《これにします》
「かしこまりました」
《けど、何から書いていいか分からないな…》
「えっと、その…お客様の気持ちを、言葉にしてみるのがいいと思います。
真っ直ぐな言葉が、1番相手に届くはずなので…」
余計なことかもしれないと思ったけど、何もせずに立っているだけなんてできない。
男性は少し考えるような仕草を見せた後、ふっと微笑んだ。
《ありがとう。なんとかやってみる》
真剣に書いている男性を少し離れた場所で見つめながら、突然痛みだした腕を押さえる。
できるだけ重いものを持たないように言われていたのをすっかり忘れて、自動販売機の中に入れる飲み物を持ってしまったからだろうか。
「…ちょっと来て」
氷雨君にそう耳打ちされて、首を傾げながら後をついていく。
もしかして、何かやらかしてしまったのだろうか。
「あ、あの、」
「別に悪いところがあったわけじゃない。具合が悪いのかと思って、連れ出しただけ」
「え…?」
「腕、できるだけ動かさないようにしないと後遺症が残るかもしれないんでしょ?」
切られた怪我もそうだけど、まだおばさんに助けられる前大火傷をしたことがある。
あの人にやられた古傷で、小さい頃からずっと傷跡になっているのだ。
どうしてそんなことを知っているのかまでは分からないけど、少しだけ休ませてもらおう。
「手紙が仕上がる頃に呼びに来るからここで待ってて」
「…分かった。ありがとう」
氷雨君の気遣いに感謝しつつ、近くの椅子にゆっくり腰掛ける。
備品を借りるのは申し訳なかったけど、保冷剤で肩あたりを冷やすことにした。
昔からの傷とはいえ、これが原因でできないこともあるから少し苦しい。
ぼんやり昔のことを思い出しそうになっていると、優しく声をかけられた。
「そろそろお客様がおりる時間だけど、いけそう?」
「あ、うん。大丈夫…。あの、これ、」
「気にしなくていい。保冷剤ならまた用意すればいいから」
どうして氷雨君はいつも優しい言葉をくれるんだろう。
いつも入りこませてくれない彼に疑問を持ったまま、男性が座っている場所まで小走りで向かった。
男性が不安を口にしたとき、氷雨君がにこやかに話しかける。
「伝えたい言葉に上手いも下手もありません。折角ですし、想いが届く可能性もありますのでやってみませんか?」
《届く可能性…》
その言葉に背中を押されたのか、男性は意を決したように顔を上げる。
《やります。少しでも可能性があるなら、ちゃんと言葉にして書いておきたい》
「かしこまりました。彼女にレターセット一式持ってきていただきますので、少々お待ちください」
氷雨君の視線は柔らかいもので、すぐに沢山の種類の便箋と封筒が入ったケースを持ってくる。
男性は悩みながらもなんとか選んだようだった。
《これにします》
「かしこまりました」
《けど、何から書いていいか分からないな…》
「えっと、その…お客様の気持ちを、言葉にしてみるのがいいと思います。
真っ直ぐな言葉が、1番相手に届くはずなので…」
余計なことかもしれないと思ったけど、何もせずに立っているだけなんてできない。
男性は少し考えるような仕草を見せた後、ふっと微笑んだ。
《ありがとう。なんとかやってみる》
真剣に書いている男性を少し離れた場所で見つめながら、突然痛みだした腕を押さえる。
できるだけ重いものを持たないように言われていたのをすっかり忘れて、自動販売機の中に入れる飲み物を持ってしまったからだろうか。
「…ちょっと来て」
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もしかして、何かやらかしてしまったのだろうか。
「あ、あの、」
「別に悪いところがあったわけじゃない。具合が悪いのかと思って、連れ出しただけ」
「え…?」
「腕、できるだけ動かさないようにしないと後遺症が残るかもしれないんでしょ?」
切られた怪我もそうだけど、まだおばさんに助けられる前大火傷をしたことがある。
あの人にやられた古傷で、小さい頃からずっと傷跡になっているのだ。
どうしてそんなことを知っているのかまでは分からないけど、少しだけ休ませてもらおう。
「手紙が仕上がる頃に呼びに来るからここで待ってて」
「…分かった。ありがとう」
氷雨君の気遣いに感謝しつつ、近くの椅子にゆっくり腰掛ける。
備品を借りるのは申し訳なかったけど、保冷剤で肩あたりを冷やすことにした。
昔からの傷とはいえ、これが原因でできないこともあるから少し苦しい。
ぼんやり昔のことを思い出しそうになっていると、優しく声をかけられた。
「そろそろお客様がおりる時間だけど、いけそう?」
「あ、うん。大丈夫…。あの、これ、」
「気にしなくていい。保冷剤ならまた用意すればいいから」
どうして氷雨君はいつも優しい言葉をくれるんだろう。
いつも入りこませてくれない彼に疑問を持ったまま、男性が座っている場所まで小走りで向かった。
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