皓皓、天翔ける

黒蝶

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第14章『協力者』

第75話

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思いきって尋ねてしまったけど、よくなかったかもしれない。
「氷雨?その人が言ってたのか?」
「えっと…ごめんなさい」
「別に謝る必要はない。やっぱりそうか」
折原さんとは違い、番号を渡してくれた先生は納得したように頷く。
「先生の知り合いなのか」
「おまえも一応知り合いだろ。…黄泉行列車の車掌だ」
「先生の友人だったか。名前は初めて知ったけど、君も知り合いなのか」
「はい。クラスメイトというか、仕事仲間というか…友人になりたい、と思っています」
ふたりは顔を見あわせてふっと笑った。
「向こうもそう思ってるんじゃないかな」
「え…?」
「毎日敬語で話されてるなら別だけど、仲がいい相手や信頼されてる相手には初対面以外はタメ口で話すから」
折原さんの言葉に頷きながら、室星先生が話してくれた。
「この学園への期間限定の交換授業に来たのは、あいつに頼まれたからだ。自分だけではどうにもできそうにないが、放っておけない奴がいるからと話していた。
…万が一のために俺の番号を渡しておくと話していたしな」
「そうだったんですか…。邪魔になっているんだと思っていました」
「邪魔だと思ってるやつに話しかけるほど優しくないからな、あいつは」
まるで昔から知っているように話す室星先生の態度を不思議に思いながら、手当てしてもらったことのお礼を伝えてその場を離れる。
私はまだ氷雨君のことを知らない。
どうすれば教えてもらえるんだろう。
……そもそも、本当にそんなふうに思ってくれているんだろうか。
《ねえ》
突然話しかけられて驚いていると、ひょこっと男の子がこちらを見ていた。
《僕、迷子になっちゃったんだ。どっちに行ったらいいかな?》
中庭の方へ行けば矢田さんがいるはずだ。
男の子に手を差し出すと、恐る恐るといった様子で握ってくれた。
《もう少し歩く?》
「…お飲み物はいかがですか?」
《今は大丈夫…》
「かしこまりました。…では、少々お待ちください」
紙パックのココアと男の子が見ていた苺ジュースを買って、男の子に渡した。
「間違えて買ってしまったので、よろしければ召しあがってください」
《ありがとう。…ねえ、なんで分かったの?》
「私は、間違えて買っただけですから」
男の子に気を遣わせたくなくて、ただ笑顔で話しかける。
ジュースを飲んだ後笑いかえしてくれてくれてほっとした。
「あ、あの、矢田さん。迷子みたいです」
「ありがとう、氷空ちゃん。そういえば、今日はすごい人が来てるみたいだね」
「すごい人、ですか?」
「うん。リーダーの友だちみたいなんだけど、ふたりのうちひとりは夜紅姫って呼ばれるくらい強い炎の使い手なんだって」
きらきらと目を輝かせている矢田さんの発言に、ふたりの姿が思い浮かぶ。
放課後になるのを待って探してみようと思った。
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