皓皓、天翔ける

黒蝶

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第14章『協力者』

第74話

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どうなるんだろうと思っていたら、札から炎が轟々と音をたてている。
「──燃えろ」
その言葉と同時に、相手の体は炎に包まれた。
《ギャアアア!》
折原さんは相手が灰になったのを確認して、両手を合わせて静かに祈っている。
「……さて」
私の方に歩いてきた折原さんはどこかに電話をかけはじめた。
「先生、ごめん。ちょっとこっちに来てほしいんだ。…そう、屋上。片づけたよ」
電話を切ってすぐ、私の腕の怪我をじっと見つめる。
「あ、あの…」
「襲われたの、初めてだったか?」
「はい。経験はなくて、えっと…」
「けど、さっきのが視えるくらいの力はあるってことか。大変だな」
「さっき、折原さんは何をしたんですか?」
「最小限力を削いで、もうこのあたりで悪さができないようにした。…これ以上は上手く説明できない」
折原さんは苦笑しながら傷を消毒してくれた。
しばらく待っていると、誰も来ないはずの屋上の扉が開く。
「…状況は?」
「屋上に来たらこの子が襲われてた。なんとか追い払ったけど、このあたりが荒れてるって話は本当みたいだな。
…まあ、私たちの町ほど噂の影響力がないみたいだからなんとかなりそうだけど」
そこには、さっきまで授業をしていた室星という教師が立っている。
その人は私の腕を見てしゃがみこんだ。
「怪我したのか」
「あ、えっと…」
「心配しなくても、先生は怒ってない。あと、緊張するならゆっくり話してくれればいいから」
折原さんがそう言ってくれて、少しほっとしながら状況を説明した。
室星先生は持っていた鞄の中から沢山の道具を取り出す。
「滲みると思うが少し我慢してくれ。念の為に消毒しておかないとどうなるか分からない」
「ご、ごめんなさい」
「別に謝らなくていい。ただ、妖だろうが怪異だろうが死霊だろうが、いい奴ばかりじゃないってことは忘れないでくれ」
「分かりました。あ、あの、怪異ってなんですか?」
「噂によって存在が左右されるものだ。元人間もいれば流れた噂とたまたま境遇が似ていたという理由で怪異になることもある。
私たちが住んでいる町はここ以上に噂の影響を受けやすくて、普段から襲われることがよくあるんだ」
ふたりの話はとても興味深かった。
私が見てきた世界はまだ狭くて、ふたりくらい経験があるわけでもない。
「私たちはある人物から依頼されて、このあたり一帯を見回っているんだ」
「そうだったんですね…。今は、生死の境目が不安定になるって言ってました。…それも関係ありますか?」
「誰から聞いた?」
しまったと思いつつ、何も言わないわけにもいかなくて悩んだ。
そんな様子を察されたのか、ふたりは立ちあがって男性からメモ用紙を渡される。
「困ったときはかけてくればいい。俺は一応先生だからな」
「あ、ありがとうございます」
受け取った紙を確認すると、そこには昨日氷雨君からもらった番号が書かれていた。
「もうすぐ昼休みも終わる。そろそろ教室に戻った方がいいんじゃないか?」
「…あの、もしかして、氷雨君のお友だちですか?」
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