皓皓、天翔ける

黒蝶

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第15章『死者還り』

第80話

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《色々な場所を見られるお祭りだって聞いたから来たんだけど、家はもうなかったし…。
だから、かっこいいお兄さんやお姉さんがいる学校を見てみたくてここにいるんだ》
とても寂しそうに微笑む男の子を放っておけない。
ただ、昨日のこともあるから警戒してしまう。
《あとね、怖い夢を見るからできるだけひとりでいたくないんだ》
「怖い夢、ですか?」
《うん。誰かを傷つける夢…。僕のことを誰も待ってなかったから、寂しくてそういうのを見ちゃったのかも》
やっぱりこの男の子が自分の意志で人に襲いかかっているとは思えない。
どうしようか迷ったけど、寂しい思いをさせたくなかった。
「もしよろしければ、私と一緒に校内をまわりませんか?」
《え、いいの?迷惑じゃない?》
「全然迷惑なんかじゃありません。私もひとりなので、少し寂しく思っていたんです」
今朝スマホを確認したら、今日も検査が続くから会えないとおばさんから連絡が入っていた。
おばさんのところ以外に用事はないし、課題ももう終わらせてある。
男の子の手を握ると少しひんやりしていて、やっぱり生きているわけじゃないんだと改めて感じた。
《お姉さん、こっちの部屋は何?》
「音楽室です。ピアノやギターを使った授業があるんですよ」
《お姉さんも弾けるの?》
「ピアノはメロディだけで、ギターは少しだけできます」
《何か聴かせて!》
わくわくした様子の男の子を放っておくわけにはいかないし、私の演奏で楽しんでもらえるならそれでいい。
「それじゃあ、えっと…ギター、持ち歩いているのでやってみますね」
男の子は近くの椅子に腰掛け、きらきらした目をこちらに向けた。
弾いたのは、個人的にずっと好きな曲だ。
男の子は知らないかもしれないけど、1番まともに弾けるのがこれだった。
ちょこちょこ歌を口ずさみながら演奏を終えると、小さな拍手が聞こえてくる。
《すごい!綺麗な曲だね》
「ありがとうございます」
《僕も弾けたらかっこよかったのにな…》
男の子の表情はやっぱり寂しそうで、少し話を聞いてみたいと思った。
寂しさの理由を取り除けるかは分からないけど、少しでも寄り添いたい。
「あなたのことをもっと教えてもらえませんか?」
《僕のこと?》
「はい。知りたいので」
《…僕、人と話すのが苦手で、いつも照れちゃうから友だちがいなかったんだ。
ひとりで帰ってたら、いきなり…。それで、気づいたら死んじゃってた》
笑ってるけど、全然笑えない。
「あの、何か聞きたい曲はありませんか?弾けるものなら是非やらせていただきますので…」
《本当!?じゃあ、こっちのヒーローの曲がいい!》
少し難しい譜面ではあったけど、なんとか弾ききってみせる。
けど、鳴り響く拍手はひとつではなかった。
「いい演奏だった」
折原さんに警戒してしまったけど、彼女は私にはっきり告げた。
「私は誰でも攻撃するわけじゃない。だから、そんなに身構えなくても大丈夫だよ」
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