皓皓、天翔ける

黒蝶

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第17章『英雄譚』

第93話

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氷雨君から手紙を受け取って数日…列車には乗っているけど、学校はずっと休んでいる。
ホームルームにさえ行く気になれなくて、おばさんにも会いに行けていない。
胸が締めつけられて、誰かを失うかもしれないという恐怖が消えてくれないのだ。
「……もう行かないと」
手紙を手作りした小袋に入れて、そのまま駅へ向かう。
心に入った罅は、簡単に消えてくれそうにない。
「こんばんは!」
「…こ、こんばんは」
「マント、やっとひとりでつけられるようになりました!ありがとう」
「私なんかで役に立てたならよかったです」
「あ…」
一礼してすぐにその場を離れる。
長田さんはいい人だって分かっているけど、どうしても人と上手く話せない。
もしかしたら前より会話できなくなっているかもしれないけど、人と関わったらいなくなってしまわないか怖くなる。
列車に乗ったら目眩がして、そのまま体が傾いていく。
それを誰かに支えられた。
「…見つけた」
「氷雨君…」
「こっち来て」
答える間もなく手を引かれて、辿り着いたのはお客様が誰もいない車両だった。
何故か食べ物が沢山並んでいて、箸を渡される。
「何が好きか知らないから適当に用意した」
「え…?」
「気にするのも自分を責めるのも分かるけど、ご飯はちゃんと食べないと心も体も壊れる。
俺もこれからここで食べる。…言っておくけど、食べるまで仕事させないから」
氷雨君はやっぱり優しい。
どうしてこんな私にも親切にしてくれるんだろう。
「ありがとう」
「あと、ホームルームには出た方がいい。…今の君を見たら黒コートの人が悲しむ」
「……そうだね」
両手を合わせて、小さめのおにぎりを口に入れる。
そういえば最後にちゃんとご飯を食べたのはいつだろう。
「美味しい…」
「君の料理の方が何倍も美味しいと思うけど」
「…本当?」
「少なくとも、俺にとってはそうだ」
「初めて料理を人に褒められたかもしれない。…ありがとう」
あんまり食欲はわかなかったけど、誰かとご飯を食べる美味しさなんて久しぶりに知った気がする。
食べているうちに心がほっこりしてきて、少しだけ冷静になれた。
まだ何もかもを受け止めきれたわけじゃないけど、お客様に対して笑顔になれないならきっと失礼だ。
「…ありがとう氷雨君。私、もう大丈夫だよ」
「何の話?俺はただ食事を一緒に摂っただけ」
ふたりでその場を片づけていると、誰かが入ってくる音がした。
《あれ、また間違えた…?すみません!》
「い、いえ。あの、お客様はどの車両からいらっしゃったんですか?」
《2階席に戻りたかったんですけど、さっきから違う車両についちゃって…》
「ご案内します」
一瞬氷雨君の方を見ると、小さく頷いてくれた。
本当は片づけまでしっかりやりたかったけど、お客様を放っておけない。
頭に大きなこぶができているお客様を、階段近くまで連れていった。
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