皓皓、天翔ける

黒蝶

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第17章『英雄譚』

第97話

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「その怪我どうしたんだ?」
「……なんでもないよ」
新田と呼ばれた生徒に、男子生徒が声をかけている。
「取り敢えず手当てさせてくれ」
「できるの?」
「慣れてるから。にしても、おまえすごいな。成績トップなんてなかなか取れないよ」
「……ありがとう。褒めてくれたのは弘中君が初めてだよ」
「すごいことなのにな…」
ふたりの会話は少しぎこちなかったけど、少しだけ穏やかな雰囲気だった。

それから数日後、げたげた嗤う生徒たちに囲まれて傷だらけになった少年を庇う姿があった。
「おい、新田に何してる?」
「え、弘中君!?」
「おいおい、正義のヒーローごっこか?」
「…成程ひとりに束になってかからないと勝てないくらい弱いのか」
「んだとてめえ!」
拳をふりあげた生徒は、一瞬で廊下に転がった。
何がおこったのか、目で追いきれていない。
「くそ…おまえら!」
8人くらいが束になってかかったものの、男子生徒は全部避けきって新田と呼ばれていた少年の手を握る。
「走れるか?」
「う、うん」
そのまま人がいない屋上まで走り抜いて、男子生徒は肩で息をしていた。
「弘中君、その怪我…!」
「これくらいかすり傷だから気にするな。おまえが無事ならそれでいい」
よく見ると、男子生徒の腕からは血が出ている。
カッターナイフより鋭い刃物の傷みたいだけど、一体いつ負ったものなんだろう。
「ごめん。僕が弱いせいで…」
「賢いって強さだと思うんだけど、違うのか?」
「え…?」
「俺は勉強あんまり得意じゃないから、新田みたいに勉強ができるやつを尊敬してる。
…というか、努力できるやつはみんなすごい」
「なんだか弘中君らしいね。だけど、あいつらには関わらない方がいいよ。
僕は運悪く目をつけられたけど、君はまだ逃げられるはずだ」
その言葉に、男子生徒は首を傾げる。
「なんでそんなことしなきゃいけないんだ?」
「え…?」
「そもそも被害者を護ってくれない規則が間違ってるだろ。俺が直談判する。おまえはここにいろ」
「ちょっと、弘中君…!」
男子生徒はその足で職員室へ向かい、自分の傷を見せる。
けれど、それはただの喧嘩として処理されてしまった。
「悪い。役に立てなくて…」
「……いいんだ。ありがとう。ボス的位置にいる山崎ってやつが理事長の関係者みたいで…。僕の前の子は不登校、その前の子は学校を辞めたって聞いてる」
「だから穏便にすませたいのか」
「だから、僕にはもう、」
「なあ、今日から俺と友だちになってくれよ」
「…僕なんかでいいの?」
「俺のこと怖がらずに話聞いてくれたの、おまえが初めてだったんだ。ずっと声をかけたかったけど、勉強のじゃまになりそうだったから…」
新田少年の表情がぱっと明るくなる。
「ありがとう。僕、いわゆるコミュ障で、話すのは得意じゃないんだけど…連絡先、交換しない?」
「それいいな!俺、バイト先と習い事の番号しか入ってないんだ」
「僕は、姉といつもお世話になってる図書館の司書さんの番号だけ…」
お互いにとって初めての友人は、きっと心強いものだっただろう。
ここからどうなって男子生徒が亡くなる結果になったのか、想像するだけで苦しくなった。
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