皓皓、天翔ける

黒蝶

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第17章『英雄譚』

第98話

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「おい、ガリ勉。昨日はよくも──」
「新田、早速勉強教えてほしいんだけど…ああ、先客?」
「ひっ……」
新田少年に声をかけた加害者グループの一員は小さく悲鳴をあげて、足早に去っていった。
「おはよう弘中君」
「おはよう。…で、ここの数学の問題なんだけどさ、何回読んでも意味分からなくて」
「ああ、この問題はこっちの公式に当てはめてから、この公式を使うと解きやすいよ」
「ありがとう。あとはちょっと自力でやってみるわ」
翌日から、ふたりの交流時間はぐっと増えた。
朝早く来て一緒に勉強、お昼ご飯は立入禁止の屋上で食べて、夕方は図書館に寄った後護身術を習う。
「新田、結構筋いいな」
「本当?僕、そんなに体力ないんだけど…」
「俺に教えてくれた先生が言ってたんだけど、最後は意志に任せるしかないらしい。
…けど、誰かを護りたい気持ちはきっと力を引き出してくれるはずだって」
「いい師匠だね」
「ありがとう。俺もそう思うよ」
それからしばらくふたりの平穏な日々が続いた。
新田少年は体力をつけていって、男子生徒は数学の点数が上がったと喜んでいる。
──そんな日常は突如破壊された。
「ごめん。職員室に呼ばれてるから先行っててくれ」
「分かった。いつものところで待ってるね」
男子生徒は職員室にいた教師に声をかけて、痣だらけの体の写真を見せる。
「…これでもまだ喧嘩とか言うのかよ」
「君たちが黙っていてくれれば穏便に片づくんだ。それでいいだろう?…この話は終わり!」
びりびりに破られた診断書の破片を拾って、男子生徒は唇を噛みしめる。
「…分かった。新田の診断書、然るべき場所に提出するんで」
それだけ話して屋上へ向かう。
途中の階段で、言い争う声がした。
「ガリ勉、おまえ今日はあの化け物といないの?」
「弘中君は化け物なんかじゃない。僕は何をどう言われてもいいけど、彼を傷つけたら許さない」
新田少年は静かに怒っていた。
その目を見た加害少年たちは、彼に掴みかかる。
「調子に乗りやがって!」
「わっ……」
新田少年が目を閉じたところに、男子生徒が突進した。
新田少年の体はなんとか階段からお地図にすんだものの、男子生徒の体は2階分転げ落ちていく。
「弘中君!」
加害生徒たちが逃げるなか、新田少年だけは男子生徒に駆け寄った。
「よかった…正也」
「弘中君?弘中君!」
口からごぼごぼと血を吐きながら、ぱくぱくと動く口元を見つめる。
──いいお兄ちゃんじゃなくてごめん
最期の瞬間、彼の口はそう動いていた。


「そろそろつくよ」
「あ…うん。ありがとう」
それしか返す言葉がない。
新田少年にとって、弘中さんは間違いなく正義の味方だった。
それほど大切な相手がいなくなってしまうなんて、今もきっと苦しんでいるだろう。
どこまでも無力な自分を呪いたくなった。
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