皓皓、天翔ける

黒蝶

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第18章『侵入』

第102話

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「ユエ、こっちに来なさい」
「嫌だ。どうして僕なの?」
「おまえが我慢すればすむんだ」
「嫌だ、痛い!やめて!」
小さな蟲が蠢く小屋みたいなものに投げ入れられて、ユエと呼ばれた男の子は閉じこめられてしまう。
「モエは今日も可愛いわね」
「ありがとうございます」
「あの出来損ないとは大違いだ」
とても家族の図には見えなかった。
腕は折れそうなほど細いし、格好だってひとりだけぼろぼろだ。
苦しみや憎しみの他に、渇愛を感じる。
食事もひとりだけ違うものを食べていて、あの人と暮らしていた頃の自分を思い出した。

そんななか、その渇きを潤してくれる存在が現れた。
「大丈夫?」
「ありがとう。でも、僕とは関わらない方がいいよ」
「どうして?」
「…僕は、いらない子だったんだって。それに、殴られたり蹴られたり、痛いことされたくないでしょ?」
少女は少し考えるような仕草を見せた後、男の子に微笑みかける。
「痛いのは嫌だけど、あなたも痛そうだよ。消毒するからこっち来て」
「ま、待って…」
それからしばらくの間、ふたりは仲睦まじく暮らしていた。
けれど、それは長く続かない。
いつも見てきたから知っている。
「このアマ!勝手に出しやがったな!」
「きゃあ!熱い、熱い…!」
「やめて!ごめんなさい、悪いのは僕だから…」
泣きじゃくる男の子は、また蟲小屋に入れられた。
いくら扉をたたいても開くことはない。
翌日、真っ黒な塊が小屋に入れられた。
「あ、ああ…」
男の子は全身全霊叫ぶ。
それはまるで、自分の無力さを呪うように。
世界の全てを憎むような目をした彼は、どれだけ押しても開かなかった扉を蹴り飛ばす。
「なんであんたが出てきて、」
「…おまえのせいだ。おまえが来てからみんなおかしくなった」
「はあ?何言って──」
男の子は、自分の家にいた女の子の体を思いきり突き飛ばす。
「誰か、助けて!」
溺れている姿を見た町中の人間が、彼女を助けようと必死になる。
なんとか岸に引き上げられた女の子は、半泣きで男の子を睨みつけた。
「あんた、自分が何したか分かってるの?」
「…なんで」
「え?」
「なんで助けが《来るんだよ!》」
男の子の姿はどんどん変化して、スライム状の大きな体になった。
《あの子は!たったひとり僕を人として扱ってくれた!怪我の手当ても、ふたりで食べるご飯も幸せだったんだ。
それをおまえたちが奪ったんだ。なのになんであの程度のことで助けがクルンだヨ!》
少年の周りはひび割れて、どんどん人が逃げはじめる。
けれど、それさえ覆ってしまうほど大きな姿に変化した。
そして男の子はぽつりと呟く。
《コンナセカイナンテナクナッテシマエバイイ》
燃える家屋に、水で溢れ破壊された隣町へ繋がる橋。
《アハハハ!》
世界の全てを憎んだ男の子は、ただ哀しそうに嗤っていた。
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