皓皓、天翔ける

黒蝶

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第19章『秘密』

第103話

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「あの…氷雨君」
「どうかした?」
「ありがとう。また助けられちゃったね」
列車を降りて声をかけるのは初めてかもしれない。
「別に。俺は俺がやりたいようにやってるだけだから。…それじゃあ、また今夜」
「うん。お疲れ様。また今夜」
今日は学校も休みだし、書店とおばさんのところへ行こうと決めて着替える。
「おばさん、起きてる?」
「氷空ちゃん?今日は早いのね…」
「学校が休みだから。どうしているのか気になっていたし…そうだ、何か食べたいものがあるなら買ってくる」
「いいの?それなら、氷空ちゃんがいつも食べてるお菓子を一緒に食べたいわ」
「分かった。それじゃあ、お昼ご飯を食べた頃にまた来るね」
午前中に書店へ行って、隣のお店でお菓子を買って行けば丁度いい次官になる。
そう思っていたけど、お昼すぎに尋ねるとおばさんは眠っていた。
「こんにちは。成川茜さんのご家族ですか?」
「は、はい」
「成川さんは今、午前中の検査で疲れて眠っていまして…。何か言伝がございましたら、」
「えっと…これを、渡しておいてください」
「分かりました」
看護師さんに一礼して部屋を出たけど、なんだか嫌な予感がするのはどうしてだろう。
もしかすると、おばさんは…できればそれ以上考えたくなかった。

「氷空ちゃん?」
「こ、こんばんは、矢田さん」
「こんばんは。全然休んでないけど大丈夫なの?」
「はい。あまり寝なくても平気なので…」
あの人と住んでいた頃は眠れないのが当たり前だった。
昔から寝つきがよくなかったし、夜中に目が覚めたことも少なくない。
「あの、昨日はありがとうございました。長田さんにもよろしくお伝えください」
「分かった。…俺からも言わせて。雪の話し相手になってくれてありがとう」
「い、いえ、私なんかじゃそれくらいしか…」
「氷空ちゃんにとってはそれくらいなのかもしれないけど、雪にとっては違うんだ。
彼女は長い闘病生活を送っていたから、氷空ちゃんみたいに友だちとして話してくれる人はあんまりいなかった…」
矢田さんはにっこり微笑んで、真っ直ぐ私を見つめながら言った。
「僕にできることって少なかったから、氷空ちゃんが話し相手になってくれて本当に助かってるんだ。僕共々、これからも仲良くしてほしいな」
そんなふうに人から言われたのは初めてだ。
吃驚して言葉を失っていると、矢田さんはどこか遠くを見つめながら呟く。
「…リーダーのことも、きっと君なら救えると思うんだ」
「それってどういう、」
「皆さん、そろそろ仕事の時間ですよ」
「了解です!…それじゃあ氷空ちゃん、またね」
走り去る矢田さんを見送って、氷雨君の後ろをついていく。
今回はどんなお客様がいらっしゃるのか、少しだけ不安だった。
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