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第22章『水底にて』
第127話
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女性は震えながら話を続ける。
《体が鉛みたいに重くて、どうやっても動くことができなかった…。薬をかがされたのかもしれないし、足におもりがつけられていたせいかもしれない。
だけど、あの男の怖いくらいの満面の笑みと指一本動かせなかったことだけは思い出せる…》
「そう、ですか」
《…そっか。ここに持ってるのはあの子のなんだ。殺されたことを証明したくて、絶対あの子だって分かるものを持っておきたかった。
スマホだけじゃ証明できないから、警察に行くつもりだったの。でも、あの男は私を外に出してくれなかった…。それで目が覚めたら船の上》
「小型船ですか?」
《オールで漕ぐタイプのものだったと思う。話しかけたかったのに、口が上手く動かせなくて…。
もしかしたら、寝ている間に何か飲まされていたのかもしれないわね》
女性はだんだん記憶がはっきりしてきたらしい。
ホットチョコレートを少し飲んで、悲しそうに微笑んだ。
《それから男は、素晴らしい作品の一部がどうのと話していた。ここで死ぬんだって思っていたら、いきなり湖に投げ入れられたの。
体が沈んで、息ができない…。もう駄目だと思って目を閉じた。…私、死んじゃったのね》
自分の体を見て、女性は悲しそうに告げる。
《誰でもいいから、あの男が犯人だって伝えたかったのに》
「あ、あの…それなら、手紙を書いてみるのはどうでしょうか?
この列車に乗車された多くのお客様が、自らの思いをしたためています」
《届くはずないのに?》
「届くと信じてほしいです」
女性は少し考える仕草を見せた後、覚悟を決めたように顔をあげた。
《それなら、思い切って書いてみるわ》
「すぐに一式お持ちします」
《ありがとう》
誰に書くのか気になったものの、特に尋ねることもなくあっという間に時間だけが過ぎ去っていく。
とても悩んでいたみたいだけど、なんとかまとまったみたいだ。
《ありがとう。これ、お願いします》
「たしかにお預かりしました」
女性は残っていたグラタンを完食して、最後までとっておいたであろうマシュマロを口に入れる。
ずっと綺麗な仕草で、危うく下り口の案内をしないまま終わるところだった。
《話を聞いてくれてありがとう。あなたのおかげで少し前を向けた気がします》
「私で力になれたならよかったです」
女性の髪に絡まっていた花が、少しずつ落ちていく。
別れの足跡を見つめながら、女性の姿が見えなくなるまで見送った。
「氷雨君、これ…」
「……お疲れ様」
なんだか気分が悪くなって、その場に座りこむ。
いつもより早いな…なんて考えているうちに、意識は闇へと堕ちていった。
《体が鉛みたいに重くて、どうやっても動くことができなかった…。薬をかがされたのかもしれないし、足におもりがつけられていたせいかもしれない。
だけど、あの男の怖いくらいの満面の笑みと指一本動かせなかったことだけは思い出せる…》
「そう、ですか」
《…そっか。ここに持ってるのはあの子のなんだ。殺されたことを証明したくて、絶対あの子だって分かるものを持っておきたかった。
スマホだけじゃ証明できないから、警察に行くつもりだったの。でも、あの男は私を外に出してくれなかった…。それで目が覚めたら船の上》
「小型船ですか?」
《オールで漕ぐタイプのものだったと思う。話しかけたかったのに、口が上手く動かせなくて…。
もしかしたら、寝ている間に何か飲まされていたのかもしれないわね》
女性はだんだん記憶がはっきりしてきたらしい。
ホットチョコレートを少し飲んで、悲しそうに微笑んだ。
《それから男は、素晴らしい作品の一部がどうのと話していた。ここで死ぬんだって思っていたら、いきなり湖に投げ入れられたの。
体が沈んで、息ができない…。もう駄目だと思って目を閉じた。…私、死んじゃったのね》
自分の体を見て、女性は悲しそうに告げる。
《誰でもいいから、あの男が犯人だって伝えたかったのに》
「あ、あの…それなら、手紙を書いてみるのはどうでしょうか?
この列車に乗車された多くのお客様が、自らの思いをしたためています」
《届くはずないのに?》
「届くと信じてほしいです」
女性は少し考える仕草を見せた後、覚悟を決めたように顔をあげた。
《それなら、思い切って書いてみるわ》
「すぐに一式お持ちします」
《ありがとう》
誰に書くのか気になったものの、特に尋ねることもなくあっという間に時間だけが過ぎ去っていく。
とても悩んでいたみたいだけど、なんとかまとまったみたいだ。
《ありがとう。これ、お願いします》
「たしかにお預かりしました」
女性は残っていたグラタンを完食して、最後までとっておいたであろうマシュマロを口に入れる。
ずっと綺麗な仕草で、危うく下り口の案内をしないまま終わるところだった。
《話を聞いてくれてありがとう。あなたのおかげで少し前を向けた気がします》
「私で力になれたならよかったです」
女性の髪に絡まっていた花が、少しずつ落ちていく。
別れの足跡を見つめながら、女性の姿が見えなくなるまで見送った。
「氷雨君、これ…」
「……お疲れ様」
なんだか気分が悪くなって、その場に座りこむ。
いつもより早いな…なんて考えているうちに、意識は闇へと堕ちていった。
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