皓皓、天翔ける

黒蝶

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第24章『冬が終わる』

閑話『寒空の下、ひとり思うことは』

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「氷雨君、あの…よかったらこれ、もらってくれる?」
星影氷空に渡されたのは、小さく星が刺繍された帽子だった。
「…どうして?」
「今日のお礼も兼ねて。いつか渡そうと思ってたから…」
「…そう」
彼女は少し不安げに瞳を揺らしている。
まだ右手が上手く動かせないらしく、着替えるのも大変そうだったと長田から聞いた。
「ありがとう」
「好みじゃなかった…?」
「そういうわけじゃない。ただ、俺のことを考える人が珍しいだけ」
おそらく彼女は俺の頭が目立たないように選んでくれたのだろう。
「もしかしてこれ、君が刺繍を入れてくれたの?」
「…うん。実はそうなんだ。下手だけど、一応お守り代わりに…」
彼女は自覚していないだろうが、若干加護がかけられている。
時間をかけて作ってくれたんだろう。
「大切にする。今日はもう帰って。何か心配事があるなら連絡してくれればいい」
「ありがとう。それじゃあ、また今夜」
休んでもいいのに、彼女は絶対にそうしない。
家の方角へ向かったのを確認した後、ひとり町を歩く。
彼女はもうすぐ独りになる。
それが分かっていて何もしない俺は残酷だ。
果たしてこのままの関係でいいのか、やはり悩んでしまう。
……俺は今何を考えた?
「おかあさん、見て見て!」
「どうしたの?まあ、可愛いブレスレットができたのね」
「だいぶ雪が降らなくなってきたね。寒くない?」
「わん!」
大量の人間たちの会話ではっとする。
この町の人間たちは穏やかな会話をしていることが多い。
【大丈夫。いつかあなたの全てを受け入れてくれる人が現れるわ】
…どうして今思い出したんだろう。
ぽつぽつ降っていた雨が、だんだん本降りになってくる。
建物の軒下に入ったところで時計を確認すると、意外と時間が経っていることに気づく。
「……行かないと」
周囲のはしゃぐ声とは対称的に、俺の心は真っ暗な寒空の中にある。
少しだけ温かくなったのは、彼女からもらった帽子のおかげだろうか。
クラスメイトが通りかかるのが目に入り、急いでその場を離れる。
【それを見ても怖がらない人がいる。私以外にもいい関係を築ける人が出てくるよ。
…だってあなたは、そんなにも優しい心を持っているんだから】
寒空で思い出すのは彼女のほっとした表情と、昔ある人から言われたことだった。
誰とも関わらずにいるつもりだったのに、矢田たちや彼女とはそこそこ深く関わってしまっている。
正直、これから自分がどうしたいのか分からない。
いつかこのぬくもりを返せたらいい…そう思いながら帽子をかぶりなおした。
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