皓皓、天翔ける

黒蝶

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第25章『届けたい想い』

第143話

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「氷雨君ってどうしてあんなに強いの?」
雪解けの季節、単刀直入に訊いてみる。
「突然どうしたの?」
「この前もすごかったし、どうやって力を使いこなしてるんだろうって思って…」
「…別に。場数を踏めばどうにかなる」
やっぱりまだ深く立ち入らせてはもらえない。
「いつか私も、氷雨君みたいにかっこよくなれるかな?」
「俺みたいに無愛想になってもいいことはない。…まあ、いつもにこにこしてるのは疲れるだろうけど」
クラスでそうしているの、ばれていたんだ。
内心苦笑しつつ、氷雨君からお弁当箱を受け取る。
「…卵焼き」
「え?」
「また入れてくれる?」
「うん」
リクエストなんて珍しいな…なんて思いながら、午後の授業はさぼっておばさんのところへ向かう。
「こんにちは、おばさん」
「あら、氷空ちゃん。今日は早いのね」
「いつもよりちょっとだけ…」
おばさんの腕には点滴のチューブがついていて、見ているだけで不安になる。
「そんなに心配しなくても大丈夫よ。いつもそうだったでしょ?」
「…うん。そうだね」
できるだけ不安にさせないように振る舞っているつもりだけど、普段どおりにできているだろうか。
ちゃんと笑えている自信がない。
「あ、あの、成川茜さんでしょうか?」
「そうですけど…ああ、もしかして新米さん?」
「はい。最近勤務しはじめた者です。あの、ご家族の方でしょうか?」
持っているものからして、検査の時間なんだろう。
「は、はい。…それじゃあおばさん、また来るね」
「氷空ちゃん」
「どうしたの?」
「これ、ちょっとの間預かっててくれない?」
そう言って渡されたのは、古びた鍵だった。
どういう意味があるのか分からないけど、ふたつ返事で受け取る。
「また来るね」
「無理に来なくても大丈夫よ。…でも、会いにきてくれたらほっとするわ」
「…明後日絶対来るから」
おばさんがそんなことを言うのは珍しい。
看護師さんに一礼してその場を去る。
なんだか少し寂しそうに見えたのは気のせいだろうか。
「怪我の調子は?」
「もうそんなに悪くないよ。あのとき氷雨君が助けてくれたから…。ありがとう」
「…あんまり無理しないように」
右手を見て、氷雨君ははっきりそう言った。
本調子じゃないことはばれてしまったらしい。
隠し通せるとも思っていなかったけど、もう少し上手く誤魔化したかった。
一応包帯を巻いているのが見えないように手袋をしているけど、他の人にも怪我のことを知られてしまうかもしれない。
できるだけ不自然な動きにならないように気をつけながら、今夜の担当車両に乗りこんだ。
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