皓皓、天翔ける

黒蝶

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第25章『届けたい想い』

第145話

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「……!」
あまりの衝撃に言葉を失う。
《執拗に追いかけられた彼女は、家とは逆方向に逃げていました。その近くを親子が通りかかったらしく、大声で危険を知らせながら走ったそうです。
…その行動で親子を救いましたが、彼女は苦しそうな表情を浮かべて息を引き取りました。…病院で最後に、ごめんなんて言うんです。僕が強ければもっと違った結果になっただろうに…》
「そう、だったんですね」
ある日突然、人の命が理不尽に奪われる。
それは男性にとってとても悲しいことだったに違いない。
《僕も彼女も天涯孤独の身なので、葬儀の手配をしました。…今でも思い出すと、少し苦しくなります》
「お客様に大切に想われていて、奥様はとても幸せだったと思います」
《そう言っていただけるとありがたいです》
首元につけていたペンダントトップを開いて、中の写真を見せてくれる。
そこには小さなメッセージと、花の写真が入っていた。
《これは彼女がよく身につけていたもので、お守りだからと僕に渡してくれたんです。…懐かしいな》
夫婦愛というものが私にはよく分からない。
それでも、男性がどれだけ家族思いだったかはなんとなく分かる。
《その頃、娘はまだ5歳になったばかりで…お母さんはどこ?って聞いてくるんだ。そのときは流石に堪えました》
「とても苦労されたんですね」
《金銭面は計画的に貯金していたこともあってなんとかなりましたが、家族と過ごす時間を確保するのが大変でした。できるだけ娘の側にいたくて、無理を言って在宅中心の仕事にさせてもらいました。
僕が車椅子じゃなければもっと色々なことを我慢させずにすんだんだろうけど、誰にも頼めなかったんです。
保育園の親子参加の行事は全部休ませざるを得なかったし、行ってみたい場所も我慢させてしまいました》
話を聞いているだけで胸が締めつけられる。
どうしてこんなに苦しいんだろう。
《それからしばらくして、家政婦さんに来てもらうことにしたんです。
夕方から夜、保育園が終わって僕が家に帰るまで…はじめは慣れなくて泣いていた娘も、今ではすっかり懐いています》
男性は家に帰っているつもりなのかもしれないけど、もう娘さんに会うことはできない。
まだ直接死に関わる話は聞けていないけど、やっぱり切なくなった。
「あの、お茶のおかわりを淹れましょうか?」
《お願いします。あと、卵焼きをいただけますか?あれば塩むすびも…》
「かしこまりました」
すぐに用意してもらえるようにお願いして、今度は少し違う茶葉を使った緑茶を持っていく。
男性は手帳を見つめながら、優しい笑みを浮かべていた。
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