皓皓、天翔ける

黒蝶

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第27章『散り桜』

第158話『邂逅』

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「今宵もよろしくお願いします」
他のメンバーが散り散りになったのを確認して、担当区画に乗りこむ。
全てをセットし終えたところで、後ろから声をかけられた。
「リーダー、氷空ちゃんは…」
「あの部屋にいます」
「成程。他のメンバーに近づかないように言っておきます」
「ありがとうございます」
矢田は色紙のようなものを持ち、そそくさとその場を後にする。
勘がいい後輩は、モニタールームに近づかないよう他のメンバーを止めてくれた。
「あの、リーダー!氷空ちゃんって今どこにいますか?」
「ひとりでゆっくり休んでもらっています。…今はそっとしておいてあげたいので」
「そうですよね…分かりました」
長田も心配なのだろう。
だが、今夜はどうしても星影氷空を休ませたい。
大切な相手に先立たれるというのは、とても苦しいからだ。
偶然か必然か、今夜の担当が病死した方々の車両になった。
彼女がいる部屋に置いてあるモニターは、この場所を映しているはずだ。
《あら、あなたは…あのときはお世話になりました》
「いえ。私は少し手伝った程度ですので」
まさか荷物運びをした程度なのに、顔を覚えられているとは思っていなかった。
穏やかな笑みからはどんな最期だったか想像できない。
《ところで…この列車、どこへ向かっているの?》
「そのうち話します。…ところで、お腹は空いてませんか?」
《そうね…少しだけ。でも…あら?なんだか今日は食べられそうだわ。最近あまり食欲がなかったんだけど、周りの人たちが楽しそうだからかしら?》
なんとか話を逸らし、ひとまず注文を受けることにする。
にこやかな笑みを浮かべる女性は穏やかな口調で告げた。
《ハンバーグはある?できればチーズのソースのものがいいんだけど…》
「かしこまりました。すぐご用意させていただきます」
《氷空ちゃんがよく作ってくれたの。一緒に住んでいた頃、肉好きな私の為に練習していて…とっても嬉しかったわ》
「…そうなんですね」
今の料理上手な彼女があるのは、ふたりの生活を護りたくて頑張った結果なのかもしれない。
《いつも遠慮していたから、料理を教えてほしいと言われたときと自転車に乗ってみたいとお願いされたときは嬉しかったわ。
全部ひとりで抱える子だから、本当は苦しいことを隠しているんじゃないかって心配だったの》
たしかに彼女はひとりで抱えこむことが多い。
時々、声をかけていいか分からないことがある。
空に溶けて消えてしまいそうで、掴もうとしても離れてしまう。
なんとなくだが、そう感じてしまうのだ。
《ごめんなさい。話し相手になってくれるの、氷空ちゃんや施設の人たち以外でいないから、つい…》
「いえ。…その話、もっと詳しく聞かせてください」
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