皓皓、天翔ける

黒蝶

文字の大きさ
188 / 236
第27章『散り桜』

第157話

しおりを挟む
「立てますか?」
「…ご、ごめんなさい」
いつの間にか崩れ落ちて泣いていたみたいで、看護師さんが手を引いて立たせてくれた。
「成川さんからエンディングノートやプランの話は聞いていますか?」
首を横にふると、看護師さんが説明してくれた。
どうやら、自分にもしものことがあったときのために書いてあるものがあるらしい。
ひとつは個人の病室にあるエンディングノート、もうひとつは施設で預かっているプランノートがある。
「は、初めて聞きました」
「成川さんは周りに心配をかけないように振る舞う人だものね…。他の部屋の患者さんたちを元気づけているのをよく見かけました。
それから、もし外出許可をもらえたら何がしたいかなんかを話して…」
「…おばさんらしいです」
足が悪くなったから入ったんだと思っていた施設は、もう長く持たない心臓に少しでもいい環境を求めて入ったらしい。
それから、私が通える範囲の場所で探してくれたことも。
「…私、本当に何も知らなかったんだ」
メッセージを送信して、空を見上げる。
星ひとつ輝いていないそれは、どこまでも広がる闇のようだった。
【今夜からしばらく仕事に行けそうにありません。ごめんなさい】

それから数日ばたばたした。
葬儀の手配は施設の人たちがやってくれて、申し訳ないのとありがたいのでいっぱいだ。
おばさんがそういう契約にしていたんだとスタッフの人が教えてくれたけど、私はおばさんを知っている人を知らない。
「小さなお葬式で、というのがご希望だったようです」
「あ…そう、なんですね」
きちんとおばさんを送り出したいのに、施設の人たちに支えられる形でただ手を合わせることしかできない。
私が知る限り一度もお見舞いに来ていないあの人にも連絡したけど、やっぱり現れなかった。
…やっぱりそういう人なんだ。
「氷空ちゃん、その…」
「雪」
「お菓子食べない?」
「…すみません。今は大丈夫です」
「そっか。じゃあ、食べたくなったらいつでも言ってね」
ある程度やらないといけないことが片づいて、仕事に出ることにした。
…そうでもしないと気が紛れないから。
「今夜はこの部屋にいて。いいって言うまで絶対に扉を開けないこと。いい?」
「……分かった」
もしここでも必要とされなくなったら、私はどうなるんだろう。
もう救いなんて求めていないけれど、この場所にいられなくなったら…。
そんな不安を口にできなくて、黙って氷雨君の背中を見送る。
動いていないと余計なことを考えてしまいそうで、持っていた本の続きを読むことにした。
……どれくらい時間が経っただろう。
ふと近くのモニターに目を向けると、そこには見知った顔が映し出されている。
「…おばさん?」
そこには、にこやかに微笑むおばさんと淡々と接客する氷雨君がいた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness

碧井夢夏
ライト文芸
<第五回ライト文芸大賞 最終選考・奨励賞> 住宅街とオフィスビルが共存するとある下町にある定食屋「まなべ」。 看板娘の利津(りつ)は毎日忙しくお店を手伝っている。 最近隣にできたコーヒーショップ「The Coffee Stand Natsu」。 どうやら、店長は有名なクリエイティブ・ディレクターで、脱サラして始めたお店らしく……? 神の舌を持つ定食屋の娘×クリエイティブ界の神と呼ばれた男 2人の出会いはやがて下町を変えていく――? 定食屋とコーヒーショップ、時々美容室、を中心に繰り広げられる出会いと挫折の物語。 過激表現はありませんが、重めの過去が出ることがあります。

不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。

翼 うみ
恋愛
父の会社を立て直す交換条件のため、ほぼ家族に身売りされた形で関東最大級の極道・桜花組の次期組長に嫁入りしたジェシカ。しかし母を亡くして以降、義母と義妹に虐げられていたジェシカは実家を出られるなら、と前向きだった。夫となる和仁には「君を愛することはない」と冷たく突き放される。それでもジェシカは傷つくことはなく、自分にできることを探して楽しんでいた。 和仁には辛い過去がありそれ故に誰のことも愛さないと決めていたが、純真で健気なジェシカに段々と惹かれてゆき――。 政略結婚から始まる溺愛シンデレラストーリー。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

元カノと復縁する方法

なとみ
恋愛
「別れよっか」 同棲して1年ちょっとの榛名旭(はるな あさひ)に、ある日別れを告げられた無自覚男の瀬戸口颯(せとぐち そう)。 会社の同僚でもある二人の付き合いは、突然終わりを迎える。 自分の気持ちを振り返りながら、復縁に向けて頑張るお話。 表紙はまるぶち銀河様からの頂き物です。素敵です!

甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・

希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!? 『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』 小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。 ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。 しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。 彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!? 過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。 *導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。 <表紙イラスト> 男女:わかめサロンパス様 背景:アート宇都宮様

お姫様は死に、魔女様は目覚めた

悠十
恋愛
 とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。  しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。  そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして…… 「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」  姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。 「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」  魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

処理中です...