190 / 236
第27章『散り桜』
第159話『蘇る光景』
しおりを挟む
《氷空ちゃんは実の母親から暴力を受けていて、たまたまそれを見つけたのが私だったの》
「だからふたりで暮らしはじめたんですね」
《最初は心をひらいてくれなくて、私も接し方に戸惑ったわ。だけど、姉がしたことを許せなかったの》
女性はお茶をすすりながら、当時に思いを馳せているようだった。
《だけど、それからすぐ病気が発覚して…。もう長くないことは分かっていた》
女性は俯いてしまった。
「ハンバーグ、お持ちしますね」
《ありがとう。お願いします》
すぐにお持ちすると、丁寧に頭を下げられた。
…そういうところが星影氷空によく似ている。
《いただきます。…ありがとう。とっても美味しい》
「喜んでいただけたようでなによりです」
《…最近、ずっと検査をしていて数値が悪化してた。でも、体が軽かったから少し調子がよくなったかもしれないと思いこんでいたの》
女性ははっとしたように小さく呟く。
《…そう。私、お迎えが来たのね》
病死したお客様に多いことだが、自分が死んだことを自覚している場合がある。
おそらくこの女性もそうなんだろう。
《まさかこんな急だと思っていなかったから、氷空ちゃんにちゃんと説明できなかったわ。
病気のことも話していなかったし、きっと沢山泣かせちゃったんだろうな…》
「…とても仲がよかったんですね」
《長い休みのときは必ず会いに来てくれていたし、感謝しかないの。買い物をお願いしても嫌な顔ひとつしなかった。
…私ね、もう15年くらい前に夫になるはずだった人を亡くしているの》
初耳だ。もしかすると星影氷空も知らないことかもしれない。
《その写真を見て、あの子言ったの。離れ離れになっても、強い絆がほどけることはないって。
氷空ちゃんがどう思っていたかは分からないけど、私はその言葉に救われたのよ。…それに、少しずつ話ができるようになったしね》
「その出来事がきっかけだったんですね」
《みんな忘れろって言うのに、小さい氷空ちゃんは違った。今だって周りに気遣える子だから、施設の人たちからも羨ましがられていて…ちょっと照れくさかったわ。
お友だちもできたから寂しくなかったけど、氷空ちゃんは照れ屋さんだから心配。…ひとり暮らしで自分のことを疎かにしてないか、とか》
「…きっと大丈夫です。少なくとも昼食はしっかり摂っているはずですから」
星影氷空についてそこまで詳しく知っているわけではない。
だが、毎日欠かさず昼食を作ってきてくれるほどのお人好しで、自分の長所に気づいていないほど謙虚であることは分かる。
《…そう。それなら安心だわ。氷空ちゃんが困っていたら、どうか力になってあげて》
「何故私に仰るんですか?」
《なんとなく、かしら。どうしてあなたがここにいるのか分からないけど、氷空ちゃんのことをよく知ってる気がするの》
女性はまたにこやかに微笑んだ。
《最近の氷空ちゃん、とっても楽しそうだったの。怪我が増えたのは心配だったけど、もう不安はないわ》
「だからふたりで暮らしはじめたんですね」
《最初は心をひらいてくれなくて、私も接し方に戸惑ったわ。だけど、姉がしたことを許せなかったの》
女性はお茶をすすりながら、当時に思いを馳せているようだった。
《だけど、それからすぐ病気が発覚して…。もう長くないことは分かっていた》
女性は俯いてしまった。
「ハンバーグ、お持ちしますね」
《ありがとう。お願いします》
すぐにお持ちすると、丁寧に頭を下げられた。
…そういうところが星影氷空によく似ている。
《いただきます。…ありがとう。とっても美味しい》
「喜んでいただけたようでなによりです」
《…最近、ずっと検査をしていて数値が悪化してた。でも、体が軽かったから少し調子がよくなったかもしれないと思いこんでいたの》
女性ははっとしたように小さく呟く。
《…そう。私、お迎えが来たのね》
病死したお客様に多いことだが、自分が死んだことを自覚している場合がある。
おそらくこの女性もそうなんだろう。
《まさかこんな急だと思っていなかったから、氷空ちゃんにちゃんと説明できなかったわ。
病気のことも話していなかったし、きっと沢山泣かせちゃったんだろうな…》
「…とても仲がよかったんですね」
《長い休みのときは必ず会いに来てくれていたし、感謝しかないの。買い物をお願いしても嫌な顔ひとつしなかった。
…私ね、もう15年くらい前に夫になるはずだった人を亡くしているの》
初耳だ。もしかすると星影氷空も知らないことかもしれない。
《その写真を見て、あの子言ったの。離れ離れになっても、強い絆がほどけることはないって。
氷空ちゃんがどう思っていたかは分からないけど、私はその言葉に救われたのよ。…それに、少しずつ話ができるようになったしね》
「その出来事がきっかけだったんですね」
《みんな忘れろって言うのに、小さい氷空ちゃんは違った。今だって周りに気遣える子だから、施設の人たちからも羨ましがられていて…ちょっと照れくさかったわ。
お友だちもできたから寂しくなかったけど、氷空ちゃんは照れ屋さんだから心配。…ひとり暮らしで自分のことを疎かにしてないか、とか》
「…きっと大丈夫です。少なくとも昼食はしっかり摂っているはずですから」
星影氷空についてそこまで詳しく知っているわけではない。
だが、毎日欠かさず昼食を作ってきてくれるほどのお人好しで、自分の長所に気づいていないほど謙虚であることは分かる。
《…そう。それなら安心だわ。氷空ちゃんが困っていたら、どうか力になってあげて》
「何故私に仰るんですか?」
《なんとなく、かしら。どうしてあなたがここにいるのか分からないけど、氷空ちゃんのことをよく知ってる気がするの》
女性はまたにこやかに微笑んだ。
《最近の氷空ちゃん、とっても楽しそうだったの。怪我が増えたのは心配だったけど、もう不安はないわ》
0
あなたにおすすめの小説
美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness
碧井夢夏
ライト文芸
<第五回ライト文芸大賞 最終選考・奨励賞>
住宅街とオフィスビルが共存するとある下町にある定食屋「まなべ」。
看板娘の利津(りつ)は毎日忙しくお店を手伝っている。
最近隣にできたコーヒーショップ「The Coffee Stand Natsu」。
どうやら、店長は有名なクリエイティブ・ディレクターで、脱サラして始めたお店らしく……?
神の舌を持つ定食屋の娘×クリエイティブ界の神と呼ばれた男 2人の出会いはやがて下町を変えていく――?
定食屋とコーヒーショップ、時々美容室、を中心に繰り広げられる出会いと挫折の物語。
過激表現はありませんが、重めの過去が出ることがあります。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
元カノと復縁する方法
なとみ
恋愛
「別れよっか」
同棲して1年ちょっとの榛名旭(はるな あさひ)に、ある日別れを告げられた無自覚男の瀬戸口颯(せとぐち そう)。
会社の同僚でもある二人の付き合いは、突然終わりを迎える。
自分の気持ちを振り返りながら、復縁に向けて頑張るお話。
表紙はまるぶち銀河様からの頂き物です。素敵です!
大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~
菱沼あゆ
キャラ文芸
華族の三条家の跡取り息子、三条行正と見合い結婚することになった咲子。
だが、軍人の行正は、整いすぎた美形な上に、あまりしゃべらない。
蝋人形みたいだ……と見合いの席で怯える咲子だったが。
実は、咲子には、人の心を読めるチカラがあって――。
離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。
しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。
私たち夫婦には娘が1人。
愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。
だけど娘が選んだのは夫の方だった。
失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。
事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。
再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
お姫様は死に、魔女様は目覚めた
悠十
恋愛
とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。
しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。
そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして……
「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」
姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。
「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」
魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……
あなたに嘘を一つ、つきました
小蝶
恋愛
ユカリナは夫ディランと政略結婚して5年がたつ。まだまだ戦乱の世にあるこの国の騎士である夫は、今日も戦地で命をかけて戦っているはずだった。彼が戦地に赴いて3年。まだ戦争は終わっていないが、勝利と言う戦況が見えてきたと噂される頃、夫は帰って来た。隣に可愛らしい女性をつれて。そして私には何も告げぬまま、3日後には結婚式を挙げた。第2夫人となったシェリーを寵愛する夫。だから、私は愛するあなたに嘘を一つ、つきました…
最後の方にしか主人公目線がない迷作となりました。読みづらかったらご指摘ください。今さらどうにもなりませんが、努力します(`・ω・́)ゞ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる