皓皓、天翔ける

黒蝶

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第29章『ささやかな願い』

第173話

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「思ったより早く決まってよかった」
「私もこんなに早く買えるなんて思ってなかった」
おじさんはこれでもかというほど値下げしてくれた。
申し訳ないと言ったけど、学生で払えるぎりぎりだろうと値段を上げることはせず笑っている。
おかげで、相場の10分の1以下で購入できた。
「おまけにってお菓子までもらっちゃったけど、よかったのかな…」
「相手から不快感は感じられなかった。善意でやってくれたことだし、ありがたく受け取っておけばいいと思う」
「そうだね」
帰り道、男の子は疲れてしまったのかすやすや寝息をたてている。
ついさっきまで目をきらきらさせていたのに、子どもって見ていてほっこりするから不思議だ。
「これでこの子を列車で送るの?」
「…いや。もう少し後がいいと思ってる」
「そうなんだ」
「よく知らないけど、ただ飾って終わりってわけではないだろうからめいっぱい楽しんでほしい」
氷雨君の言葉にはっとさせられた。
ひな祭りだとあられを食べたりするし、もしかするとそういう風習もあるかもしれない。
「鯉のぼり、とか」
「そういえばよく飾られてるね。あんまり深く考えたことなかったけど、意味があるものなら揃えたい」
色々話しているうちに、いつも使っている駅に到着する。
「勇次郎君、起きられる?」
《お兄さん…?》
「バスを降りて少し歩くよ」
《うん、分かった》
3人で降りて、この日はそのまま解散になった。
…といっても氷雨君とは夜にまた会うけど、男の子を家で休ませるらしい。
死霊というのは力が強い存在だけど、消耗するのも早いから油断すればあっという間に疲れさせてしまう…という話を聞いた。
「矢田、少しいいですか?」
「リーダー?どうかしたんですか?」
「鯉のぼりの手配を頼みたいのですが、できますか?小さめのものでも、お客様のために必要なものなので」
「今夜新しく納入されるものでよければ持っていってください。他にも色々買えるはずですから」
「そういえばそうでしたね」
ふたりの話の意味がよく分からないまま、取り敢えずパーカーの上からマントだけ羽織る。
できるだけパーカーを脱がないようにはしているけど、流石に夜仕事の制服には合わない。
「氷空ちゃん、今日は整備班を見学するんだっけ?」
「は、はい。今夜は清掃と整備班の皆さんの補助です」
道具を用意する程度のことだけど、役に立てたらいいなと思う。
差し入れを用意してあるし、喜んでもらえたら嬉しい。
まだまだ私が知らない世界があって、最近少しずつ知れるのが楽しいと感じている。
少しだけ氷雨君の補佐を任せてもらえるようになって、今は男の子のために一緒に動けて…できることがあるのは本当に嬉しかった。
……やっぱりおばさんの顔がちらついて寂しいと思うこともあるけど、なんとか頑張れそうだ。
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