皓皓、天翔ける

黒蝶

文字の大きさ
205 / 236
第29章『ささやかな願い』

第172話

しおりを挟む
「勇次郎君」
《どこか行くの?》
「うん。これからお店に行くんだ。よかったら一緒に行かない?」
《行きたい!》
男の子の手をひこうとすると、反対の手を掴まれる。
「待って」
「…もしかして、駄目だった?」
「午後の授業はどうするの?」
「今日は競技決めになるから、いなくてもいいかなって思ったんだけど…」
「…なら俺も行く」
氷雨君は男の子と手を繋いで、私に尋ねてくる。
「どこに行きたい?」
バスに乗って辿り着いたのは、小さな人形屋さん。
日本人形を沢山扱っているお店だから、五月人形だってあるはずだ。
「茜さんとこの、氷空ちゃん?」
「こ、こんにちは」
「そういや、茜さんから預かってるものがあったんだ。今度取りにおいで」
「おばさんから…」
「今は大変だろうけど、茜さんが見たいのは氷空ちゃんの笑顔だからな。それだけは忘れないでやってくれ」
「は、はい」
見た目が少し怖い人だけど、本当はすごく優しい人だ。
おばさんには顔見知りの人が沢山いて、お葬式にも来てくれた。
「ところで、そっちの兄ちゃんは?」
「こんにちは。私は彼女の友人です」
「そうか。…で、探しものはなんだい?」
「五月人形を探していまして…。見せていただくことは可能でしょうか?」
《お兄さん、さっきと話し方が違う…》
顔はにっこりしていたけど、やっぱりちょっと違和感を感じる。
男の子も不思議そうな顔をしていた。
「こっちの方にあるから、見終わったら声をかけてくれ。買うっつうんなら値段交渉しよう」
「ありがとうございます」
「すごく助かります。ありがとうございます」
「んじゃ、ごゆっくり」
おじさんが店番へ戻った直後、氷雨君はいつもどおりの表情に戻った。
「ごめんなさい。私の手持ちでは買えないものもあると思うのですが、勇次郎君が気に入ったものを教えてください」
《…本当にいいの?》
「勿論です」
今まで貯金してきたお金もあるし、おばさんが私が困らないようにと動いてくれたおかげでもらえるお金が増えた。
それを誰かを救うために使えるなら本望だ。
「…大丈夫なの?」
「私、おばさんと養子縁組されてたんだ。最近知ったんだけど、書類の山に紛れてた」
あの人が連絡してこなかったのは、それが理由かもしれない。
私が虐待されていて、放置されていることもあると証明したのだと施設の人が教えてくれた。
小声で話していると、男の子が申し訳なさそうに指をさす。
《あの…僕、これがいいな》
人形ではなく、大きな兜。
きっと遠慮しているんだと見ているだけで分かる。
「人形ならどれがいいですか?」
《え?えっと、これ…》
「分かりました」
指さされた人形と重い兜を持とうとすると、氷雨君が持ってくれた。
「半額は俺が出す」
「ありがとう」
そのままおじさんのところへ持っていって頭を下げた。
「…すみません。値段交渉お願いします」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

『召喚ニートの異世界草原記』

KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。  ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。  剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。  ――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。  面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。  そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。  「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。  昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。  ……だから、今度は俺が――。  現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。  少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。  引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。 ※こんな物も召喚して欲しいなって 言うのがあればリクエストして下さい。 出せるか分かりませんがやってみます。

月城副社長うっかり結婚する 〜仮面夫婦は背中で泣く〜

白亜凛
恋愛
佐藤弥衣 25歳 yayoi × 月城尊 29歳 takeru 母が亡くなり、失意の中現れた謎の御曹司 彼は、母が持っていた指輪を探しているという。 指輪を巡る秘密を探し、 私、弥衣は、愛のない結婚をしようと思います。

【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド

まみ夜
ホラー
ここは、2008年2月09日朝に報道された、全国十ケ所総数六十体以上の「大量焼死体遺棄事件」のまとめサイトです。 事件の上澄みでしかない、ニュース報道とネット情報が序章であり終章。 一年以上も前に、偶然「写本」のネット検索から、オカルトな事件に巻き込まれた女性のブログ。 その家族が、彼女を探すことで、日常を踏み越える恐怖を、誰かに相談したかったブログまでが第一章。 そして、事件の、悪意の裏側が第二章です。 ホラーもミステリーと同じで、ラストがないと評価しづらいため、短編集でない長編はweb掲載には向かないジャンルです。 そのため、第一章にて、表向きのラストを用意しました。 第二章では、その裏側が明らかになり、予想を裏切れれば、とも思いますので、お付き合いください。 表紙イラストは、lllust ACより、乾大和様の「お嬢さん」を使用させていただいております。

愛のかたち

凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。 ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は…… 情けない男の不器用な愛。

【完結】探さないでください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
私は、貴方と共にした一夜を後悔した事はない。 貴方は私に尊いこの子を与えてくれた。 あの一夜を境に、私の環境は正反対に変わってしまった。 冷たく厳しい人々の中から、温かく優しい人々の中へ私は飛び込んだ。 複雑で高級な物に囲まれる暮らしから、質素で簡素な物に囲まれる暮らしへ移ろいだ。 無関心で疎遠な沢山の親族を捨てて、誰よりも私を必要としてくれる尊いこの子だけを選んだ。 風の噂で貴方が私を探しているという話を聞く。 だけど、誰も私が貴方が探している人物とは思わないはず。 今、私は幸せを感じている。 貴方が側にいなくても、私はこの子と生きていける。 だから、、、 もう、、、 私を、、、 探さないでください。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

同期に恋して

美希みなみ
恋愛
近藤 千夏 27歳 STI株式会社 国内営業部事務  高遠 涼真 27歳 STI株式会社 国内営業部 同期入社の2人。 千夏はもう何年も同期の涼真に片思いをしている。しかし今の仲の良い同期の関係を壊せずにいて。 平凡な千夏と、いつも女の子に囲まれている涼真。 千夏は同期の関係を壊せるの? 「甘い罠に溺れたら」の登場人物が少しだけでてきます。全くストーリには影響がないのでこちらのお話だけでも読んで頂けるとうれしいです。

【完結】瑠璃色の薬草師

シマセイ
恋愛
瑠璃色の瞳を持つ公爵夫人アリアドネは、信じていた夫と親友の裏切りによって全てを奪われ、雨の夜に屋敷を追放される。 絶望の淵で彼女が見出したのは、忘れかけていた薬草への深い知識と、薬師としての秘めたる才能だった。 持ち前の気丈さと聡明さで困難を乗り越え、新たな街で薬草師として人々の信頼を得ていくアリアドネ。 しかし、胸に刻まれた裏切りの傷と復讐の誓いは消えない。 これは、偽りの愛に裁きを下し、真実の幸福と自らの手で築き上げる未来を掴むため、一人の女性が力強く再生していく物語。

処理中です...