皓皓、天翔ける

黒蝶

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第31章『雨の足音』

第183話

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「この近くで殺人事件だって!」
「え、なにそれ、やば…」
「だから急に放課になったのか…。カラオケ行く?」
「流石に帰るか誰かんちに集まるかだろ」
そんな声を聞きながら、無言で屋上へ向かう。
見慣れないブルーシートで覆われているのが現場だろうか。
「あそこが気になるの?」
「あ、うん。クラスの人たちが話していたから…」
「正確には、一部が欠損した遺体が発見されたんだ。連続殺人事件とみられているらしい」
「そうなんだ。もっとちゃんと調べておけばよかった」
そう言いながら、少し気になったことがある。
「人の一部を持ち去るなんて、見つかったら大変なことになるのにどうしてそんなことをしたのかな?」
「ずっと側にいるために両腕だけ持ち去った事件があった。戦利品という可能性もある」
「そんなことが…」
「…俺はいつもどおり仕事をするだけだから」
言っている意味がよく分からなかったけど、お弁当を食べてからすぐ駅へ向かう。
いつもと違う色の車体を見つけて、ついじっくり観察してしまった。
「今そこにお客様が乗ってる」
「そうなの?じっと見ちゃって申し訳なかったな…」
誰だって、くつろいでいる姿をじっと見られるのは嫌だろう。
後で謝らないと…そう思っていたけど、あまりに惨い光景に呆然とする。
右耳ががない人に左脚や右腕を切られている人…そして、私の担当は左目から血を流しているお客様だった。
「あ、あの…こんばんは。何か欲しいものはありませんか?」
《欲しいもの?なんでも手に入る?》
「ここで用意できるものなら善処します」
《それなら、ベーコンとトマトのピザが食べたいです。飲み物はお茶がいいな…》
「かしこまりました」
すぐにお茶を用意して、厨房に連絡を入れる。
「おまたせしました。ピザはできあがり次第お持ちしますね」
《ありがとうございます》
少女は比較的落ち着いているように見えるのは、今の状況を飲みこめていないからかもしれない。
どう切り出そうか迷ったけど、少女の方から声をかけてくれた。
《お姉さんは看護師さんなんですか?》
「いえ。えっと…サポート役のようなものです」
《サポート…そっか。リハビリしないといかないくらい目が悪いんですね、私》
そうだけど違う、とはまだ言えない。
「お茶のおかわりはいかがですか?」
《いただきます。なんだか喉が渇いてて…》
少女は少しずつコップを傾けて、体を温めているようだった。
《体があったまります。雨の日って温かいものがほしくなることもありますよね》
「…そうですね」
今日は雨じゃなかった。現に今も月と星がよく見える。
彼女は彷徨っている時間が長かったのかもしれない。
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