皓皓、天翔ける

黒蝶

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第32章『止まない雨』

第191話

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「あの…何か召し上がられませんか?」
《食べ物なら、卵かけご飯がいいな。スプーンでも食べられそうだし、ほっとするから》
「かしこまりました。すぐご用意させていただきます」
食堂車からトレーを持って戻ってくると、女性が腕を押さえて苦しそうにしていた。
「ど、どうされたんですか?」
《大丈夫です。ちょっと痛くて…》
「これ使って。多分冷やした方がいい」
「あ、えっと…お客様、失礼します」
女性の二の腕あたりに氷雨君が持ってきてくれたものをあてると、苦痛で歪んだ顔が少しほっとしたものに変わった。
《ありがとうございます。だいぶ楽になりました》
「お役にたててなによりです。あ、あの…卵かけご飯、食べられそうですか?」
《いただきます》
一口食べた女性は手を止めて、そのまま動かなくなってしまった。
もしかして、何か失礼なことをしただろうか。
「あ、あの…どうかされましたか?」
《純一…》
「え?」
《このご飯、彼氏と食べたご飯によく似てるんです。最近はお互い忙しくて会えてなかったけど、朝ご飯を食べるときは絶対卵かけご飯にしてました》
「恋人さんがいらっしゃったんですね」
《ちょっと照れくさいけど、私にはもったいないくらいいい人なんです。
転んで動けなくなった私を助けてくれて、たまたま通ってる高校が同じで…。今年大学を卒業するって言ってました》
「そうなんですね。おふたりはきっと仲良しさんなんですね」
《あたしはそう思ってます。けど、若干距離が離れちゃったからどうなのかな…》
女性には憧れの人と大切な人がいて、きっと幸せだったに違いない。
それが突然奪われるのが、今おこっている現象だ。
《そういえば、お金いくらですか?》
「こちらはサービスとなっておりますので、料金は発生しません」
《え、そうなんですか!?ありがたいけど、いたれりつくせりで困っちゃうな…》
女性は嬉しそうに笑いながら腕をおさえる。
「あ、あの…冷やすもの、持ってきましょうか?」
《できればお願いします。さっきから結構痛くて…》
「かしこまりました」
氷雨君のところへ行くと、すぐ場所を教えてくれた。
「ここに沢山あるから好きに使って」
「ありがとう」
「…あのお客様も鏡が必要になるだろうね」
「え…?」
氷雨君の言葉の意味が分からなかったけど、すぐに理解することになる。
《あの…変なこと聞くんですけど、あたしって死んだんですか?》
「突然どうしたんですか?」
《思い出したんです。純一とご飯を食べて、依頼者さんの家に行って、それで、それで……》
女性は大きく息を吸って、震える声で告げた。
《殴られて打ちどころ悪くて起きあがれなかったはずだって》
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