82 / 99
File1 自覚無き殺人犯
第六十九話 事件解決の裏側4
しおりを挟む
「チッ……どこ行きやがった」
歩の意識を奪った男は苛立ち横たわる歩の腹を蹴った。男の視線は夜の街を彷徨う。探すのは追跡装置。だが、見失った。
男はズボンのポケットから携帯電話を取り出した。
「すみません。撃ち落とせませんでした……」
「大丈夫だよ。想定内だからね」
電話の相手は透であった。その声は涼やかで落ち着いていた。
──
────
──────
「………」
異変を察知してすぐ、椿は無言で歩との通信を切断していた。追跡装置が撃ち落とされぬよう操作し、電線にとまるカラスやスズメに紛れ込ませた。
雑務総務課三人の目的は、総務課長である透がどういった捜査をしているかを調べることだ。
刑事部の刑事総務課の上善からの調査依頼されたこともあり、以降、能力者事件があるたびに透と士郎の追跡を試みているのだが、思うようにいかず、追跡は今回で三回目となる。
追跡失敗の要因は協力者の存在である。しかも、外部の人間の。さらにいえば、そこそこの人数、いや、それ以上のかもしれない。
運の悪いことに、一回目で透に雑務総務課三人の存在がばれてしまい、透の警備が強化されて二回目はさらに追跡は困難を極めた。ばれたといっても三人は直接、透と対峙したわけではないが、強化された状況を見るに、そう捉えざるを得なかった。
であるから、三人はばれていることを前提として動き、足での追跡はやめて装置にたよることにしたのであった。
──
────
──────
黒塗りのセンチュリーに乗る透は、指と指の間に挟まれた対象人物の写真を目を細めて見ていた。
「もうすぐ来るかな。ちゃんと見ててよ?」
透は後部座席から運転席に座る士郎をルームミラー越しに目を向けるが、ふたりの視線は交わらない。
「ね? 士郎君……」
「わかってます」
透と士郎は服部和毅の職場である川嶋医科器械株式会社前で待ち伏せしていた。
「出てきました」
士郎が窓の奥の人物を見据えたまま淡白に伝える。
「じゃ、行こうか……」
士郎は車から降りて、透の後部座席のドアを開け、ショルダーバッグを取り出し肩にかける。
「有難う」
透の声に士郎が小さく頷きドアを閉めた。
透が服部和毅の背後にまわる。
「失礼ですが、服部和毅さんでしょうか?」
「はい、どなた──⁉︎」
透が服部の口をハンカチで塞ぎ、頭を振り暴れて逃げようとする服部の首を、ハンカチで押さえた反対側の腕でぎちぎちと締め上げ、路地裏に連れ込んだ。
「ゔんん⁉︎ ゔぅう……」
ハンカチに睡眠作用のある薬品は使用されておらず、服部は暴れ続ける。士郎も路地裏に入った。そして、服部の腹部を一発思いっきり拳をめり込ませれば、服部は力なくだらりと倒れ、暴れることをやめた。
透と士郎は服部を二人で担いで先程と同じ車の後部座席に服部を乗せて発進した。
透の左拳には赤い御守りが握られていた。
──
────
──────
「一体、ドういうコトなのダ……?」
追跡装置で見ていた椿は呆然としていた。それもそのはず、透の姿は一切映像には写し出されていなかったのだから。
士郎が車から降りて後部座席のショルダーバッグを取り出し、ドアが閉まった後すぐ、服部が誰もいない後ろを振り返った瞬間、不自然な足取りで路地裏に連れてかれて行った。
「何ガ……」
何が起こったのか、椿はわからなかった。
しばらくして、士郎も路地裏に入ったかと思えば、すぐに車に戻ってきたが足取りがやや遅い。
車を降りる時、乗る時も士郎ただひとりしかいなかった。
「課長ハ?」
一体、どこに────。
歩の意識を奪った男は苛立ち横たわる歩の腹を蹴った。男の視線は夜の街を彷徨う。探すのは追跡装置。だが、見失った。
男はズボンのポケットから携帯電話を取り出した。
「すみません。撃ち落とせませんでした……」
「大丈夫だよ。想定内だからね」
電話の相手は透であった。その声は涼やかで落ち着いていた。
──
────
──────
「………」
異変を察知してすぐ、椿は無言で歩との通信を切断していた。追跡装置が撃ち落とされぬよう操作し、電線にとまるカラスやスズメに紛れ込ませた。
雑務総務課三人の目的は、総務課長である透がどういった捜査をしているかを調べることだ。
刑事部の刑事総務課の上善からの調査依頼されたこともあり、以降、能力者事件があるたびに透と士郎の追跡を試みているのだが、思うようにいかず、追跡は今回で三回目となる。
追跡失敗の要因は協力者の存在である。しかも、外部の人間の。さらにいえば、そこそこの人数、いや、それ以上のかもしれない。
運の悪いことに、一回目で透に雑務総務課三人の存在がばれてしまい、透の警備が強化されて二回目はさらに追跡は困難を極めた。ばれたといっても三人は直接、透と対峙したわけではないが、強化された状況を見るに、そう捉えざるを得なかった。
であるから、三人はばれていることを前提として動き、足での追跡はやめて装置にたよることにしたのであった。
──
────
──────
黒塗りのセンチュリーに乗る透は、指と指の間に挟まれた対象人物の写真を目を細めて見ていた。
「もうすぐ来るかな。ちゃんと見ててよ?」
透は後部座席から運転席に座る士郎をルームミラー越しに目を向けるが、ふたりの視線は交わらない。
「ね? 士郎君……」
「わかってます」
透と士郎は服部和毅の職場である川嶋医科器械株式会社前で待ち伏せしていた。
「出てきました」
士郎が窓の奥の人物を見据えたまま淡白に伝える。
「じゃ、行こうか……」
士郎は車から降りて、透の後部座席のドアを開け、ショルダーバッグを取り出し肩にかける。
「有難う」
透の声に士郎が小さく頷きドアを閉めた。
透が服部和毅の背後にまわる。
「失礼ですが、服部和毅さんでしょうか?」
「はい、どなた──⁉︎」
透が服部の口をハンカチで塞ぎ、頭を振り暴れて逃げようとする服部の首を、ハンカチで押さえた反対側の腕でぎちぎちと締め上げ、路地裏に連れ込んだ。
「ゔんん⁉︎ ゔぅう……」
ハンカチに睡眠作用のある薬品は使用されておらず、服部は暴れ続ける。士郎も路地裏に入った。そして、服部の腹部を一発思いっきり拳をめり込ませれば、服部は力なくだらりと倒れ、暴れることをやめた。
透と士郎は服部を二人で担いで先程と同じ車の後部座席に服部を乗せて発進した。
透の左拳には赤い御守りが握られていた。
──
────
──────
「一体、ドういうコトなのダ……?」
追跡装置で見ていた椿は呆然としていた。それもそのはず、透の姿は一切映像には写し出されていなかったのだから。
士郎が車から降りて後部座席のショルダーバッグを取り出し、ドアが閉まった後すぐ、服部が誰もいない後ろを振り返った瞬間、不自然な足取りで路地裏に連れてかれて行った。
「何ガ……」
何が起こったのか、椿はわからなかった。
しばらくして、士郎も路地裏に入ったかと思えば、すぐに車に戻ってきたが足取りがやや遅い。
車を降りる時、乗る時も士郎ただひとりしかいなかった。
「課長ハ?」
一体、どこに────。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる