イケメンの定義〜西条さんがブサイクって皆さん正気ですか?〜

ちよこ

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西条貴之side2

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女神がいる。
目の前に女神が。

東川にセッティングされたお見合い場所に着いた私は案内された座敷に座っていた。
予定時間の30分前だから、まだ相手は来ていない。
別に楽しみにし過ぎて早く着いたわけではない。
けっして。
そんな遠足前の子供じゃあるまいし。
まぁ、私にとって遠足・修学旅行という行事は苦痛でしかなかったが。 

約束の10分前に「お連れ様がいらっしゃいました」と仲居の声がしたと同時に襖が開いた。
最初に現れたのは40代くらいの男だ。いかにも仕事が出来そうなタイプだ。営業一課の部長辺りだろうな。
そんな事を思いながら後ろにいる人物を見た瞬間に息が止まった。

手入れの行き届いているであろうサラサラの金髪に澄み切った青空の色をした大きな瞳。筋の通った小さな鼻に熟れたサクランボのような唇。淡い水色のワンピースからは細く長い手足。それと相反して胸元は盛り上がっている。

口を開けてポカンとしていると

「西条様?お待たせして申し訳ありません。cony営業一課の堀田と申します。こちらは受付の早坂です。本日は宜しくお願い致します。」

私を見て青い顔で震えながら差し出された名刺を受け取りながら、私は高揚した気持ちがスッと下がる。
そうだ、これが初対面の反応だ。
今更じゃないか。きっと彼女も…
目線だけ彼女に向けて確認すると、顔を薄っすら紅くしてこちらを凝視している。
彼女の顔には嫌悪感も敵意も拒否感も出ていない。
ん?何だかんだ艶っぽい視線を感じるような…ふっ、まさかな。
勘違いはしないが、初対面の女性に拒否反応されなかったというだけで私は再び気持ちが高揚している。

彼女となら普通の会話が出来るだろうか。

そんな事を考えていたのにもかかわらず、いつもの癖で口から酷い言葉を彼女に投げつける。

「あ、ああ。君の事は噂で良く聞く。ふん。どうせ男を取っ替え引っ替えして遊んでるんだろう。」

自己防衛の為に傷つけられる前に相手を攻撃する癖が染み付いているのだ。
そんな事をするから益々周りから人が離れていくというのに…

言ったそばから後悔している私に信じられない言葉が耳に届く。


「……だって24年間誰ともお付き合いした事の無い清らかな身体ですもの。まぁ、この場で証明する事は出来ませんけど、その機会は西条さんが望んで下さるのならいつでもお申し付けください。」

「な、な、何を言ってる」

彼女は何を言ってるんだ!
理解が追いつかない。

「早坂。お前…本気か?」

堀田が真っ青な顔色をして彼女に問いかけている。私と同じく彼女の言葉が理解出来ないのだろう。

「ええ。部長、あとは私達二人で話し合いますので、今日は帰宅していただいても結構です。お疲れ様でした。」

彼女は微笑を浮かべ有無を言わせず堀田を部屋から追い出した。


「ふふ。保護者も帰りましたし、今後のことを話しませんか?」

堀田に向けていた微笑よりさらに美しい笑顔を私に向ける
何だ。何が起こっている?

「き、君は本気で言ってるのか?私はついさっき君に酷い暴言を吐いたんだぞ。それに私の容姿に思う事はないのか?」

「本気で言ってない事は分かってますし、容姿については、その…」

「ふっ、やはりな。どうせ事を大きくしない為に口から出まかせを言ったんだろう。あのままだと堀部長が煩いからな。ああ、大丈夫だ。いつもの事だからな。気にしてない。」

口ごもる彼女を見てようやく理解が追いついた。そう、いつもの事だ。彼女はきっと心も美しいんだろう。不細工を前にしても表情を変えず、対応出来るのだから。
私はまた急速に気持ちが凍るのを感じながら答える。

「好き。」

「分かってる。よく言われるよキモイとな。って…えっ?好き?」

「はい。好きです!可愛すぎる!」

「か、可愛い?私がか?君は何を言ってるんだ。」

また彼女は理解不能な事を言い出した。
好き?可愛い?
生まれてこの方一度も縁のない言葉だ。
使われた事はもちろん使った事もない。
私の辞書には存在しないはずの単語だ。
ああ、体が暑い。きっと汗をかいて、より一層見苦しくなっているはずだ。


「ええ。西条さんが可愛いんです。実は一目惚れしてしまいました。出来ればお付き合いして頂きたいです。」


「一目惚れ…君は視力が…はっ!分かったぞ。これが噂の美人局だな。私は引っかからないぞ!心配しなくても契約は結ぶ。破棄は取り消すから安心しろ。」

「違います。本当に西条さんが理想のタイプで一目惚れしたんです!まずはお友達からでよいのでお願いします。」

「理想のタイプ…私がか?やはり視力に問題が…えっ。いや、本当に?コレは夢か?それとも死期が近い私に哀れんだ神が最後に……そうならば臆することはないな。よし、もう一度聞くが私に一目惚れをして交際を申し込んだのは本気だろうか?」

「はい。本気です。冗談で告白なんてしません。そもそも告白自体もこれが初めてです。」

目まぐるしく進む展開に理解が追いつかないまま口を開いた。

「あぅ。うぁ…そ、そうか。やはり夢だな。今は夢を見てるのだ。最近は働き詰めだったから疲れてるんだな。それにしても良い夢だ。こんな美人と仕事以外で話す事なんてこの先無いのだから夢の中ぐらい良い思いをしよう!よし、な、なら次回はディナーでもどうだ?帝和ホテルのフレンチなんだが……土曜の夜にだ!本気なら良いだろう!?」

いや、もっと他に言い方があるだろう。何でそこで上から目線で誘うんだ。しかも土曜日のディナーだなんて我ながら余裕が無さすぎる。



「はい。楽しみにしてます」

だが彼女はこの日一番の笑顔で答えてくれた。
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