僕が告白した年上彼女は全方面で僕に勝ってくる

サンプラスにちお

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テニスコートでの逢瀬

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登場人物

川野武 16歳 178cm

中山絵理 17歳 152cm 

武と絵理は付き合いはじめて5ヶ月の仲良しカップルだ。周囲からもおしどり夫婦として認知されていて、彼らの通っている高校ではちょっとした有名人だ。

パコーン!パコーン!

夕暮れのテニスコートで一人、サーブ練習をしている男がいた。その名は川野武。

武は中学の時から高校二年の現在に至るまで硬式テニス部に所属している。とはいっても、めったにレギュラー入りすることはなく、ベンチを温めていることの多い部活生活を送っていた。

上背の高さとパワーは長所だが、技術的な未熟さと、ここぞという場面で本領を発揮できないメンタルの弱さが、試合でなかなか勝てないという結果に直結していたのである。

「た~け~し~く~んっ!!」

たけしが声のした方を振り向くと、恋人の絵理がテニスコートの方に走り寄ってくるのが見えた。

「ああ、えりちゃん、お疲れ!部活は終わったの?」
「うん、今終わったとこ~!たけしくん、こんなに遅くまで一人でサーブ練習?努力家だね~!!」
「ありがとう、次の大会こそレギュラー入りするために、頑張っておこうと思ってね。」

努力家、と絵理に言ってもらい、武は嬉しい気持ちになった。絵理はいつだって、武の長所を褒めてくれる。その度に武は深い安心感に包まれるのだった。

「あ、そういうことなら、今度二人で、コート取ってテニスやろうよ!私、たけしくんのヒッティングパートナーになってあげる!」
「え、ホントに!やったー!えりちゃんと一緒にテニスができるなんて、俺すっごく楽しみだよ!!」

絵理は中学の時からバドミントン部一筋で通している。一方で、これも中学の頃から週一でテニススクールにも通い、腕前を磨いてきたのだ。

バドミントンで身に付けた技術は、一部テニスにも応用できる。絵理は自分のテニスの腕前に密かに自信を持っていた。武の方も、絵理がテニスでもなかなかの使い手であるということは知っていたので、一緒にラリーができる日が楽しみで仕方なかった。

そして約束の日。

武は五分前にテニスコートに着いて、ストレッチをしていた。"絵理にかっこいいところを見せたい"という気持ちがそうさせるのだった。

「ごめ~ん!待った~?たけしくん早いね~!」

上下白のテニスウェアに身を包んだ絵理が、待ち合わせ時間ピッタリに現れた。そのままウィンブルドンに行っても違和感がないくらい、端正な雰囲気をまとっている絵理の姿を見て、武は改めて"何を身に着けても絵になる子だなぁ"と感心したのだった。

「いや、俺も今着いた所だよ。」
「そっか、良かった~!じゃあさっそくコートに行こっ☆」

二人は窓口で必要な手続きをして、オムニ(人工芝+砂)のサーフェスのコートへと向かった。

「けっこうキレイなコートだね~!準備体操しよっと♪」

体を動かし始める絵理。武も改めて入念にストレッチをした。武は生真面目な少年だ。プレイ前後のウォーミングアップとクールダウンのストレッチは欠かしたことがなかった。

「えりちゃん、準備はいい?じゃあ、最初はミニラリーからやろうか。」
「うん、オッケ~!」

ネットを挟んで向かい合う二人。サービスラインの所に立ち、短い距離でのラリーを始める。

武は右利き、バックハンドは片手打ちだ。一方の絵理は同じく右利きだが、バックハンドは両手持ちのプレイヤーである。

絵理はバドミントン仕込みの鮮やかなフットワークで軽やかに動き、力みのないフォームで、ボールをしっかりとラケットのスイートスポット(面のど真ん中)でとらえていた。

武もさすがはテニス部、ミニラリー程度ならまずミスなどすることなく、絵理とのラリーを心から楽しんだ。

40分後…。

コート全面を使ったラリー、ボレーの練習、サーブ&レシーブなど、一通りの定番の練習メニューを終えて、二人でベンチに座ってスポーツドリンクを飲んだ。

季節は八月。夏真っ盛りでうだるような暑さの中だったが、武はほとんど苦痛を感じなかった。絵理と一緒にテニスができることが心から嬉しかった。絵理も同じように思ってくれていたらいいな、と願わずにはいられなかった。

武がそんな調子で思いに耽っていた時のこと、その瞬間は青天の霹靂のように訪れた。

「たけしくん、試合やろっ!真剣勝負だよ☆」
「えっ!?」

武は心の準備ができていなかった。ヒッティングパートナーになると言ってくれた絵理。てっきり基本練習をみっちりやるのかと思い込んでいた。

「当ったり前でしょ!!なんのためにコート取ったと思ってるの?」
「そっそれは、練習をみっちり…」
「つべこべ言うの禁止~☆これからたけしくんは私とテニスで本気の勝負をするのです!確定事項だよ~ん♪」

甘かった…。武は己の迂闊さを呪った。二人でテニスをやるというのだから、この展開は当然想定しておくべきだったのだ。

しかし時既に遅し。武は「まあ部活でふだんやってる俺が本気を出せば負けることはないんじゃないかな…」と甘く考えた。

そして5分後…。二人はネットを挟んで対峙していた。

「フィッチ?」
「スムース」

絵理のラケットが先端を地面につけて回転し、やがて倒れた。

「あ、たけしくんが当たりだね。サーブの権利を取る?それともコートを選ぶ?」
「サーブを取るよ。」
「じゃあ私はあっち側のコートを取るね!」

こうして、ザ・ベスト・オブ・ワンセットマッチの試合が、武のサービスゲームで始まりを告げた。

武は冷静になることを心掛け、サーブの構えに入る。

スッ……バコーン!!

放った速球のフラットサーブは、絵理のコートのセンターギリギリの地点に炸裂した。サービスエースだ。

「たけしくん、ナイスサーブ!さすが!!」
「ありがとう、15-0!」

続くポイントは、再度武のフラットサーブが入り、絵理はなんとかラケットに当てたものの、リターンのショットはアウトとなった。30-0。

武は良い流れの中でファーストサーブを放つが、ネットにかけてフォールト。セカンドサーブは堅実にスライス回転を加えたサーブを放った。絵理はそれを難なくリターンし、ラリー戦となった。

武はフラットのフォアハンドなどで攻勢をかけ、絵理はたまらずショットをネットにかけた。40-0。

続く武のサーブ、フラットサーブが今度はワイド方向に決まり、絵理は手を出すことができなかった。ゲームカウント1-0。

「たけしくん、すごいパワーだったね!でも私もやられてばっかりではいないよ~!」
「望むところさ!」

コートチェンジをして、絵理がサーブの構えに入った。小柄でサービスエースを取るのは難しい絵理だが、彼女には緻密な戦略があった。

絵理はスライス回転を加えたサーブをワイド方向へ放った。コートの外に逃げていくサーブだ。

武は不意を突かれ、体勢を崩しながらなんとかリターンしたものの…

バシッ!!

素早くネットに詰めていた絵理が鮮やかなフォアボレーをストレートに決めた。15-0。

「…くそっ!」
「狙い通り~☆どんどんいくよ~!」

続くポイント、絵理はトスをやや後ろに上げた後、上体を大きく反らし、その反動でボールに縦回転を加えるサーブを放った。スピンサーブだ。

そのサーブは武の真っ正面、ボディを目掛けて放たれた。決して早くはないが、正面に跳ねるサーブがくるとレシーバーは非常に返球しづらい。武はラケットには当てたものの、ボールは明後日の方向へと飛んで行った。

「やりぃ~っ♪30-0!」

武はスピンサーブが打てなかった。ガタイは良いのだが腹筋が弱く、絵理のように上体を大きく反らすことができなかったのだ。

(俺には真似できない芸当だ…くっ、悔しい……!)

武は動揺が自分を襲うのを自覚した。弱点であるメンタルが揺さぶられつつあった。

次のサーブ、絵理は回転量を抑えた速めのサーブをセンターギリギリに打ち込んだ。直前のサーブとのスピード差に感覚を狂わされた武のリターンは、大きくアウトとなった。40-0。

(えりちゃんがこんなに強いとは……これは少しでも油断したら負け確定だ!)

武は自分で自分にプレッシャーをかけてしまっていた。彼の悪癖であった。

次の絵理のサーブ、今度はかなりスピードを落としたスライスサーブを、センターに丁寧にコントロールした。これもレシーバーから見て外に逃げていくサーブだ。武は食らいつこうとしたが、触れることができなかった。

「ゲームカウント1-1!たけしくんどうしたの~?テニス部でもない女の子に翻弄されるなんてねw☆」
「うぅ…でも次は俺のサーブだよ!絶対負けないからね!!」

最初のポイント、再びフラットサーブをセンターに放つ武。しかし…。

「…そこっ!!」
バコーン!!

武は一瞬何が起こったのか分からなかった。しかしすぐに、自分の完璧なフラットサーブが返されたこと、しかも絵理のリターンに自分は全く反応できなかったこと…これらのことに気付かされたのだ。

「やった~、リターンエース!たけしくん、どうよっ☆もう見切っちゃったもんね~!」
「うっ、うぅ…0-15。」

次のポイント、武は動揺からダブルフォールトをした。負けパターンに入りつつあることを武は自覚した。0-30。

(いかんいかん、冷静になれ武!まだイーブンじゃないか)

次の武のサーブ、いつもならファーストサーブはフラットサーブを放つ武が、弱気ともとれるスライスサーブを入れにいった。

難なく深いリターンを放つ絵理。このポイントは長いラリー戦となった。フラット系の速いショットでねじ伏せようとする武、トップスピンやスライスをふんだんに織り交ぜた多彩なプレーをする絵理、という構図だった。

いつまで続くのか、と思うような長いラリーの末、ポイントを勝ち取ったのは絵理だった。武のストロークがネットにかかったのだが、武は完全に息が上がっていた。一方の絵理は余力を残していた。スタミナ負けである。0-40。

「あれ~?女の子に前後左右に振り回されて、ゼーゼーハーハー言っちゃうの~?たけしくん、体力無いんだね~♡」

スコアはまだイーブンなのに、武は泣きそうになっていた。と同時に、なにやら快感のようなものが内側からこみ上げてきて、戸惑いを隠せなかった。

次のポイント、武は破れかぶれで渾身のフラットサーブを絵理の真っ正面に向けて放った。

「うわっ、と…♪」

普通なら返球するのが難しいショットだが、絵理は軽やかな身のこなしで何とか返球してみせた。そこからはまたラリー戦になった。

ショットの球種や配球などは直前のラリー戦と似たり寄ったりだが、冷静にポイントを支配しているのは絵理の方だった。

絵理がバックハンドのスピン系のショットをクロスの浅い所に配球する。なんとかクロスに返球する武だが、次の瞬間…。

バコーン!!!

轟音とも言うべき凄まじい打球音を響かせて、絵理の鮮やかなバックハンドのダウン・ザ・ラインが、武のコートを切り裂いていった。

「ゲーム絵理!ゲームカウント2-1!あはっ、パワーでも私の方が上だったりして♡」

そこからの展開は、試合と呼ぶのもためらわれるような一方的なものとなった。既にスタミナ切れを起こしている武を絵理は前後左右に揺さぶりまくり、試合を完全に自分の手中に収めていたのだ。

そして迎えたマッチポイント…。ゲームカウント1-5、0-40。

武はすっかり戦意を喪失し、サーブを枠内に入れる自信もなくなり、なんとアンダーサーブを放ったのだ。

これに対して絵理は強打!…と思いきや、意表を付くドロップショットを鮮やかに放った。

猪突猛進の勢いで全速力で前方に走る武。なんとか返球することはできたのだが…。

ポーン。

絵理は涼しい顔で事も無げにロブを放ったのだ。

武は最後の力を振り絞り、バックステップでその打球を追おうとするが、途中で足がもつれて…

ズッシーン!

情けない音を立てて尻餅を着いてしまったのだった。

ぺたんとコートに力なくへたり込む武に対し、絵理は勝ち誇ったように武を見下し、

「ゲーム・セット・マッチ・ウォン・バイ・絵理!ゲームカウント6-1!私の勝ち~♡」

高らかに勝利を宣言するのだった…。

試合終了後、ネットをひょいと乗り越えて武のもとに歩み寄る絵理。

「あぁ~楽しかった☆たけしくん、弱すぎ~♪女子に手も足も出ないで負けちゃう、ざこざこ系男子ってやつ~?♡♡」
「うぅ、うっ……」

涙ぐむ武。絵理は武の肩にポンと優しく手を置き、

「ウソウソ~、ごめんね~、よく諦めないで最後まで頑張ったね。勝敗なんて時の運だから。それに、たけしくんはこの試合を通して課題をたくさん見つけたでしょ?それって、伸びしろメチャメチャある系男子ってことなんだよ!」
「うっ、えりちゃぁん、うわぁぁぁ~っ……」

悔しさと安堵が入り混じった涙を流す武の頭を、絵理は優しく撫で続けたのだった。武が泣きやむまで……。

そして全てが終わった後…。

「たけしくん、私、今日は本当に楽しかった!たけしくんと一緒にテニスするの、私の夢だったんだよ!叶えてくれて、本当にどうもありがとう!!」
「俺の方こそお礼を言わなきゃいけないよ、カッコ悪いところを見せちゃったのに、えりちゃんはいつもと変わらず優しくて…。俺、絵理ちゃんの彼氏になれて良かった!ありがとう…!」
「やだ~、なんか照れくさいよぉ~!でも、また一緒にテニスしようね!またたけしくんのことボコボコにしちゃうかもだけど…なんてね♡」
「うっ…、次はこうはいかないよ!いつの日か、絶対にえりちゃんに勝ってみせるからねっ!!」
「あはは、その意気だよ~!じゃあ、帰ろっか!途中まで一緒だよね、手、繋ご?」

二人はテニスコートを後にして、仲むつまじく帰途についたのだった。

絵理は左。武は右。お互いの掌の温もりを感じながら、二人は、

「ここが俺(私)の居場所だ」

と、心の底から確信し、揺るぎない平穏を、感謝にも似た気持ちで、深く深く味わうのだった…。

つづく
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