王に振られた公爵令嬢は王の側近に拾われる

空田かや

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21 爵位譲渡書

「──確かに。」

男は慇懃に書類を受け取った。

それは爵位譲渡書の受領確認の書類だった。
昼過ぎた頃、この男はやって来た。

着ている服を見る限り、王宮関係ではなく事務的な仕事の関係者なのだろうと
思った通り法務部の者だった。

出来上がった書類を、約束した日時に自宅に届けに来たがルドンが留守だった為
スピナが代理で受け取った所だった。

討伐で、家を長期空けることになると思っていなかったルドンは
昼休憩にでも抜けて、この書類を受け取ってしまおうと思っていたのであろう。


この家にはシオという五十歳位の執事がいる。

しかし、実際の家の管理は全てルドンがしていた。

使用人は通いのみで数人である。

昼間、侍女や女中以外は一人になるスピナを気にしてシオを置き
体面を保っている…というのが本当の所だ。

「いや、無事に譲渡が終わってホッとしております。
旦那様にも申し上げたのです。
三ヶ月は喧嘩などなさいませんように…と。
揉めて爵位も受け取れず相続税も返ってこず…という
大変な思いをされた方を、以前知っていたものですから…。」

男は楽しい小話の一つでもした気になって帰って行ったが
スピナにとっては傷口に塩を塗られたような、ただただ耳の痛い話だった。

ルドンのような魅力的な男なら、週に一度でも抱いてやれば
どんな女も満足するだろうに。

ルドンは、月のものが来ている日以外、スピナを毎晩甘く抱いた。
まるで念を押すかのように──。
その男の話は、ルドンの行為に対する完璧な答えだった…。


スピナは黒い牛皮で閉じてある爵位譲渡書を、ルドンの執務室の机にそっと置いた。

これでスピナの役割はルドンにとって終わったといえる。

ルドンはスピナと気まずく別れたまま討伐に行き、一週間程帰宅していなかった。

帰宅して、これを受け取ったルドンはどんな手を使うのだろう。
例えば…愛人でも連れ込んで妻の方から出て行ってもらうようにするとか…。

一番面倒がなさそうだ。

この国には妾制度があり、王を筆頭に権力や財産にあふれている者は
愛人を持つことが多い。
余裕のある者は、その状態でも揉め事が少ないからだ。

スピナが思いを巡らせていると、執務室の外で、家の者達が騒がしくしているのが
聞こえてきた。

部屋を出ていくと、シオを取り囲んで二人の女中が立ち話をしていた。
スピナを見ると、一人の女中がスピナに恐る恐る話しかける。

「…奥様…。アフェリエアの討伐でフリード王がお怪我をされたそうです。
魔物の討伐は無事に終わったとの事ですが、何でも重傷という事で…。
旦那様の話は何も入ってきていないのですが…。」

「───────。」

スピナは鈍器で頭を殴られたような衝撃とともに、頭が真っ白になるのを感じた。


あんなに強大な力を持つ王が重傷…。

その王を守るのがルドンの本来の役目…。

あのルドンが、おちおち王に怪我を負わせるはずがない。

王が重傷という事は…。


シオが静かに言った。

「奥様、もう兵は帰路に就いているという連絡は来ておりますから
早ければ今夜、遅くとも明日の朝には…。」

スピナはこの家の主人の妻として、皆を安心させようとした。

「何も連絡が来ないのは…。王が重傷で皆があわてているからで………。」

言っていて次の言葉がでてこない。

「…ごめんなさい。私、ルドン様を迎えに行ってもよろしいですか?
兵を率いての討伐の時は、王都の門から帰還されるのが普通だから
…今から見て来ます。」

「奥様、私達もご一緒に…。」

「いえ、いつ帰って来られるか分からないし
すれ違いでルドン様が帰宅された時の為に家に居てください。」

ショールを羽織って出ていこうとするスピナに、シオが言った。

「奥様、公爵夫人は一人で外を出歩いてはなりません。」

「でもシオ、ルドン様が居なければ私は公爵夫人でも何でもないんですもの…。
だから、迎えに行かなくちゃ…。」

後ろでシオの声が聞こえたが、家の外に飛び出していた。


王都の門まで行けば何か分かる…きっと分かる…。


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