王に振られた公爵令嬢は王の側近に拾われる

空田かや

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28 ローセンナ牧場

スピナは牧場の干し草の上で寝っ転がり、空を見ていた。

王都にある屋敷から数時間かかるこの牧場へは、昼過ぎに着いた。
あの家で、またレジーと顔を合わせたくなかったのだ。

急に来たスピナを、管理人のヨハンは驚きながらも喜んで迎えてくれた。

ヨハンは昔から牧場で働いていて
高齢になった今もここに居てくれる
ただ一人の人だ。

この牧場をスピナが引き継いだ際
ヨハンが一人でも世話をする事が出来る
年老いた牛三頭を残し、全てを売り払った。

今は、牧場から何の収入も見込めない。
管理費や税金、ヨハンの給料などは、スピナが財産分与以前に母の形見として
受け継いでいた宝飾品を売って補填していた。

計算してみても、数年もつかもたないか…といったところだ。
売れる物がなくなったら、どの道ここを売ろうと密かに考えてはいた。

だが、せめてヨハンが居てくれる間だけでも牧場を維持したかった…。

朝、牧場の件で話が…とルドンが言っていた。
──ここの経営状況を知ったのだろうか。

だとするならば、ここを手放せ…という話…か。

母の宝飾品で賄える間は、維持させてほしいと懇願してみようか?

管理費を出してほしいなどとは、いくら夫といえど言えるわけもなく…。

牧場どころかスピナ自身すらも
ルドンの捨てるべきもののリストの筆頭に
あがっている気がする。

用無しになってしまった自分は、ただの無駄飯食い…と思われている可能性が
非常に高い…。

ルドンは商売人の息子だから、採算がとれないものはきっと無情に切り捨てる。


ふぅ…とスピナはため息をついた。
そして、流れる雲を見ていた瞳をぼんやりと牧場へと向けた…。

ヨハンの好きにしてくれと言ってあるここは、もはや牧場というより
菜園と花畑と言ったほうが正しかった。
色とりどりの作物と花が育ち、目にも鮮やかだ。


スピナはここに着いてすぐに着替えをしていた。

ルドンからもらった高価なドレスは牧場では
動きにくいし、汚してしまうと思ったからだ。

自分の部屋のクローゼットをあさり学生時代に
フリード王子の為に買ったオレンジ色の
ドレスを引っぱり出してそれを着た。

「原色で派手めの服が好きだ」という情報から
スピナがすぐに買い求めたものだ。

その当時の流行を追った、今となっては笑い出したくなるデザイン。

肩の上が三角形にとんがっていて、胸のあたりはざっくりとV字で開いている。
胸がはだけるデザインではないが下品なデザインのものだ。

その当時を思い出し、スピナは髪の毛も耳の横で二つに分けて縛った。

改めて見ると、かなり間抜けな格好だが当時は真剣に王子の目に留まると
信じていた。
牧草の上で転がる分には、公爵夫人のドレスより楽で着心地は良かった。

何より、見た目だけでも学生の頃に戻りたかった。

あの頃はただただ、王子に憧れていればよかった。

何と単純な生活だろうか…。


いっそ、自分から離婚を申し出て、牧場で生計を立てられないだろうか…。

今まで、お嬢様の泥遊び程度でしか、牛の世話をした事がない…。

だが、本気でここの仕事に取り組めば何とか……。
むくむくと、向上心が湧いてくるのが自分でも分かった。

──牛舎の掃除に行こう…!

そこら辺に置いてあった鍬をかつぎ、スピナは早速牛舎へと向かった。
しかし、すぐに小屋の前で動きをとめる。

…余計な事をしてヨハンに叱られないか…。
そもそもこの鍬は園芸用なのか牛用なのか……。


逡巡し、掃除は諦め、牛の飲み水の交換をすることにした。

それならばやらせてもらった事があるので、まずそこからやろうと思った。
バケツを持ち、井戸から水をせっせと運ぶ。

一段落すると、スピナは心地のいい疲労感に包まれ、額の汗を拭った。


すると背後から聞き覚えのある男の声が聞こえて来た。

「恐ろしく趣味の悪い格好をしているな…。」

よく響く美しい声の持ち主…。

──王だった。


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