王に振られた公爵令嬢は王の側近に拾われる

空田かや

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49 旅人

王とルドンが袂を分かつ事になってから何度か
季節が通り過ぎた。

その旅人は、ローセンナ公爵領の牧場に
ふらりとやって来た。


王が、目に見えないバリケードを張り巡らせて
いるので、一見すると平和なこの牧場は
城に入るより難しく、要塞のようだった。

スピナは馬車が公爵領の門を越えて
まるで、バリケードなど無いかのように
普通に入って来るのを、不思議な気持ちで
見つめていた。

手には、少し前にヨハンに渡された
バスケットを抱えている。
ネールの実が沢山入ったそれは
王から、送り返されたものだった…。


馬車が、玄関から少し離れた柵の前で止まると
スラリとした男が馬車から降りた。

──王には言われていた。

この牧場は、外から誰も入れないように
してあるが、万一、何かあればすぐに自分を呼べと…。

スピナは王を呼ぼうかと思ったが
その男を見て、やめた。

大抵の男には緊張してしまうスピナだが
降り立った男は、どこか懐かしかった。

旅人風のローブをまとい
サラサラと音がしそうな銀髪を
一つで緩く、結んでいる。

切なくなる、薄い水色の瞳が印象的な美形の男だ。

「……あなたは王の側妃と、うかがったのですが……。
ここは公爵領………。
公爵夫人ではないのですか?」

静かに話すその男の声は、スピナの深い所を
刺激し、心地よく響いた。

「……公爵の位は私の代で返上いたしました…。
お恥ずかしながら、私と結婚してくださる方が
おらず、爵位を維持できなくて…。
手放すしかなかったんです…。」

スピナはバスケットに目を伏せ、顔を赤くし
恥ずかしそうに言った。

スピナからは、ルドンの記憶がスッポリと抜けていた。

彼女にとって、ルドンは存在していない事になっていた。

男はそれを聞くと、辛そうに目を細めた。

「……私、王の側妃という事になっております
けど、やる事なす事、田舎くさいみたいで…。
形だけの側妃でして…。
ダンスも踊れませんし…。
だから、王宮にはあまり呼ばれないんです。
王は私を周りに見せるのが
恥ずかしいんじゃないかしら…。ふふふっ…。」

スピナはそう言いながらも、楽しそうに笑った。

「王は直接こちらに来ませんけど
ここの野菜や、お花をたまに買ってくれて
それで細々とですが、何とか暮らせているので
感謝しています。
…でも、このネールの実は、すぐに
送り返されてしまった……。
苦労して朝から採ったのに…。」


男はその実に目をやる。

そして思った。

あれから、一年が経っていたのかと……。


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