一瞬の中のコーヒー

AquaSky

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アイスコーヒー

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永遠なんてない。

いつからだろう。そう思うようになったのは。
今年も小さなピンク色の花びらが、川沿いを埋めつくした。やっと暖かくなってきたと
感じていたのに、辺りの道はもう一面に、そのピンク色で染まっていた。まるで、次の季節が待ちきれないみたいに。
あれはいつのことだっただろうか。風はぬるく、気を抜くと汗ばんでしまう、そんな季節だった。



「―君さ、ちゃんと前見て歩いてくれる?」
急に声をかけられ、思わず立ち止まる。辺りを急ぎ足で歩くサラリーマンや若者達が足を止める気配はない。ゆっくりとスマホから目を離し顔を上げると、いかにも気が強そうな女が、まっすぐにこちらを見て突っ立っていた。
なんだこいつは。
同い年くらいだろうか。ラフなシャツにショートパンツ、手には有名チェーンのアイスコーヒー。俺はこんな女を知らない。
「聞こえていたかな。歩きスマホはやめてねって言ってるの」
高く透き通るような声で彼女は言う。
ーあぁ、そういうことか。まるでセリフがおっさんだ。
「かわいい顔してるんだから、あまりカリカリしない方がいいんじゃない?」
軽く微笑んでそう言うと、何か言い返したそうな彼女を置いて、俺は歩き出した。時間を無駄にしてしまった。次の講義に間に合うかギリギリだっていうのに。別に寝坊をしたわけではない。アパートの近くで出くわした野良の黒猫と遊んでいたら、うっかり遊び過ぎてしまったのだ。まあなんてことはない、今日もいつもと変わらぬ日常であった。

疲れたな。ぼんやりと聞いていた講義が終わり帰路につく。昼過ぎの強い日差しが肌を焦がす。
蝉の鳴き声を聞きながら歩いていると、見慣れたコーヒーチェーンの看板が目に入ってきた。忙しない人々を横目に、オレはその店へと入った。そういえば新作が出たんだっけか。甘そうなお揃いの飲み物を飲んでいる高校生カップルを横目に、アイスコーヒーを注文する。寄り道してこういう無駄遣いをしなければお金は貯まるんだろうが、小さいことは気にしない性格なのだ。
「まーたスマホいじってるの?」
―聞いたことのある声。
「あ」
賑やかな店内が、一瞬静まり返ったような気がした。俺のアイスコーヒーを運んできたのは、他のスタッフと同じ色のエプロンを身につけている、あの気が強そうな彼女だった。
そうか。俺は無意識に、彼女が手にしていたコーヒーのチェーンに来てしまっていたのか。
「ねえ、もうバイト終わるからさ、ちょっと待っててよ!」
屈託のない笑顔で彼女は言う。
なんだこいつは。待つことはできる。暇なのだ。
「ちょっとだけだよ」

「―でさ。ここのコーヒーはブレンドがおいしくてさー」
楽しそうに彼女は話す。
気づけば俺は、川沿いの道を彼女と並んで歩いていた。あたりはすっかり街の喧騒も消え、ゆっくりと雲が流れていた。
なんだこれは。このコーヒーの女、“コーヒー彼女”とオレは何故一緒にいるんだ。
「えーと、ちょっと待って。なにこの状況?」
横目で話す彼女に、俺の質問が聞こえたようだ。笑顔で振り返ると彼女は笑う。
「あのね、君のことが気になっちゃったんだ。もうちょっとだけ一緒にいてよ!」
入道雲の下で蝉が鳴く、まだまだ暑い夕暮れだった。
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