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1.始まりはここから
しおりを挟む「君は、誰だ?」
昨夜、初夜を共に過ごしたはずの夫が、目覚めて妻を見るなり、睨みつけた。
夫は、冷たい声を聞かせると、頭が痛い様子で額に片手を当てて苦痛の声を漏らしていた。
「あなたの、妻でした」
寝起きの第一声が、冷たく放たれたものであったにもかかわらず、妻は微笑んで受け入れた。
夫の具合の悪い様子が多少心苦しいけれど、それよりも、夫の記憶から自分の存在が消えたことを確認できたことに、安堵の息を漏らした。
「……でした?」
呻き声を上げながら、考えを巡らせようとする夫が可哀相に思えて、早々に切り上げようと、妻は座っていたベッドの端から立ち上がった。
「詳しいお話は、従者に聞いて下さい」
「……」
「……さようなら、元旦那様」
夫は、苦しみに藻掻いてこちらを見ることはしなかった。けれど、そんな相手でも敬意は示さなければと、最後の挨拶とお辞儀をして、妻は寝室を出た。
ヴィガード公爵家とバンズ公爵家――二つの公爵家は、敵対関係だった。
その関係はいつの頃から始まったのか、いがみ合う本人達もわからない程昔のことで、何が原因であるのかも不明であった。
だというのに、何かと敵対心を燃やしては、あらゆる場面で衝突した。
その身に流れる血に染みついた、因縁関係だった。
貴族社会のトップに立つ家門同士の争いに、遂に国王が目を瞑ることを止めて、両家に王命を下した。
「両家で婚姻を結び、より確固たる信念で私を安心させてくれ」
ヴィガード公爵家には、息子が2人いる。バンズ公爵家には、娘が3人存在した。
王命とはいえ受け入れ難いそれに、両家が渋っていると、国王は痺れを切らして指名をした。
ヴィガード公爵家からは、長男のアレクシス。バンズ公爵家からは、三女のミラ。
この二人は、歳が同じで、どちらもまだ誰とも婚約を結んでいなかったからというのが理由だった。
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しかし、王命である婚約を無下にすることもできずに、両家のいがみ合いは婚約をきっかけに一時休戦を強いられた。
国王は、安心していた。
まさか、この婚姻が夫のアレクシスの記憶喪失が原因で破談になるとは、誰も想像していなかった。
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