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15.追憶‐sideアレクシス‐(8)
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アレクシスの左手に乗せられた彼女の右手の甲に刻印されたそれが目に入ると、心待ちにしていた"夫"の称号を得たことに胸を躍らせて、自然と顔が綻んだ。
刻印の儀式を終えた二人が外に出ると、祝福の声と拍手、そして鐘の音が鳴り響いて新郎新婦を迎えた。
アレクシスの両親も見守る中で、笑みを浮かべたままの姿を晒すことになったのは、無自覚であった。普段であれば、締まりのない顔を世間に曝け出したことに後ほど叱責を受けていたであろうが、そこに突風が吹いてその場にいる全員の視線を逸らせると、アレクシスの危機を救った。
しかし、そのおかげで新婦のベールを上げるという神聖な場面と、新郎の役目を突風に横取りされる結果になってしまったけれど、アレクシスは飛ばされそうになったベールとミラを守るために彼女を抱き寄せることに意識をとられていたから、そんなことは気にもしていなかった。
祝福の鐘が鳴り止むと同時に風も止んで、突風に襲われた参列者達のざわめく声が聞こえる中、アレクシスは胸に抱いたミラの様子を伺った。
咄嗟とはいえ、勝手に触れてしまったけれど、嫌がられないだろうかと不安が込み上げた。
ベールを抑えるためにミラの頬を両手で包んでいた。
ゆっくりと顔を上げる彼女の様子は、嫌がっているようには見えないからそのまま見つめていると、目線が合った。
蜂蜜色の瞳を丸くして、ぱちぱちと瞬きをさせる仕草が可愛らしく思えると、アレクシスの思考を掻き乱す。
こんなに近くで彼女を見たのは、いつぶりだろうか。
待ち焦がれた人にやっと会えたことが嬉しくて胸が震えると同時に、このまま彼女を連れ去って、二人のために用意した寝室に行ってベッドの上に押し倒したいと欲情が湧き上がった。
披露宴なんかどうでもいい。この可愛らしい、愛しくて堪らない人を早く自分の腕の中に閉じ込めたかった。
「……ごめんなさい」
目を逸らしたミラが静かに離れると、アレクシスは我に返った。
その言葉が、アレクシスを拒絶する意味に思えて、胸が締め付けられた。
(ごめん、と言わなければいけないのは、僕の方だ……)
ミラの手を掴んで、今この場で全て告白してしまいそうになると、横顔を見せていた彼女は、スカートの裾を摘まんで、エスコート無しに一人で足を進めると、アレクシスに背中を見せてその場を離れた。
ベールと裾がひらひらと揺れる彼女の後ろ姿が幻想的であるのに、そうやって簡単に離れて行ってしまった現実に、置いてけぼりにされたように虚しさが込み上げると、掴み損ねた手を握って想いを噛み締めた。
披露宴の会場が両家別々であるから、ミラはバンズ公爵家の招待客に挨拶回りをしなければならないため、アレクシスの隣にいるはずの妻の姿はそこにはなかった。
パートナーのいないパーティーがこんなにも寂しく思えたのは初めてだけれど、これが終われば思う存分、彼女の温もりに触れることを思えば、なんてことなかった。
思考を乱す相手がいないので、先程のように表情を緩めることもなく、アレクシスは悠然とした姿で招待客への挨拶をこなしていた。
しかし、披露宴の間、左手の甲が疼いて仕方なかった。
刻印がされた瞬間に火傷したような痛みを一瞬だけ感じたけれど、その後は特に何も感じなかった。
けれども、時間が経った今は疼いている。反対の手で触れてみたけれど傷になっているわけでもないし、擦っても痛みが和らぐことはなかった。
痛みは我慢できる程度のものであったのだけど、その疼きが、刻印に急かされているような気がしてならなかった。
何を急かされているというのか――不明なままで、段々とそれが胸をざわつかせて不安に変わると、アレクシスに焦りを思い出させる。
「彼女は?」
招待客への挨拶を一通り終えたアレクシスが侍従にミラの様子を伺うと、彼女はすでに1時間前に会場を後にしたと答えが返ってきた。
アレクシスの予定では、この後、バンズ公爵家の披露宴会場にミラを迎えに行って、二人揃って屋敷に帰る筈だった。
予想よりも早い彼女の行動に、疼いた左手の甲が不安を煽ると、反対の手で、甲ではなくカフスボタンを指先でいじりながら、侍従に向けて静かに頷いて理解を示した。
それから、会場にいる両親と弟に残りの対応を任せると、ミラを追いかけるようにアレクシスも会場を後にした。
刻印の儀式を終えた二人が外に出ると、祝福の声と拍手、そして鐘の音が鳴り響いて新郎新婦を迎えた。
アレクシスの両親も見守る中で、笑みを浮かべたままの姿を晒すことになったのは、無自覚であった。普段であれば、締まりのない顔を世間に曝け出したことに後ほど叱責を受けていたであろうが、そこに突風が吹いてその場にいる全員の視線を逸らせると、アレクシスの危機を救った。
しかし、そのおかげで新婦のベールを上げるという神聖な場面と、新郎の役目を突風に横取りされる結果になってしまったけれど、アレクシスは飛ばされそうになったベールとミラを守るために彼女を抱き寄せることに意識をとられていたから、そんなことは気にもしていなかった。
祝福の鐘が鳴り止むと同時に風も止んで、突風に襲われた参列者達のざわめく声が聞こえる中、アレクシスは胸に抱いたミラの様子を伺った。
咄嗟とはいえ、勝手に触れてしまったけれど、嫌がられないだろうかと不安が込み上げた。
ベールを抑えるためにミラの頬を両手で包んでいた。
ゆっくりと顔を上げる彼女の様子は、嫌がっているようには見えないからそのまま見つめていると、目線が合った。
蜂蜜色の瞳を丸くして、ぱちぱちと瞬きをさせる仕草が可愛らしく思えると、アレクシスの思考を掻き乱す。
こんなに近くで彼女を見たのは、いつぶりだろうか。
待ち焦がれた人にやっと会えたことが嬉しくて胸が震えると同時に、このまま彼女を連れ去って、二人のために用意した寝室に行ってベッドの上に押し倒したいと欲情が湧き上がった。
披露宴なんかどうでもいい。この可愛らしい、愛しくて堪らない人を早く自分の腕の中に閉じ込めたかった。
「……ごめんなさい」
目を逸らしたミラが静かに離れると、アレクシスは我に返った。
その言葉が、アレクシスを拒絶する意味に思えて、胸が締め付けられた。
(ごめん、と言わなければいけないのは、僕の方だ……)
ミラの手を掴んで、今この場で全て告白してしまいそうになると、横顔を見せていた彼女は、スカートの裾を摘まんで、エスコート無しに一人で足を進めると、アレクシスに背中を見せてその場を離れた。
ベールと裾がひらひらと揺れる彼女の後ろ姿が幻想的であるのに、そうやって簡単に離れて行ってしまった現実に、置いてけぼりにされたように虚しさが込み上げると、掴み損ねた手を握って想いを噛み締めた。
披露宴の会場が両家別々であるから、ミラはバンズ公爵家の招待客に挨拶回りをしなければならないため、アレクシスの隣にいるはずの妻の姿はそこにはなかった。
パートナーのいないパーティーがこんなにも寂しく思えたのは初めてだけれど、これが終われば思う存分、彼女の温もりに触れることを思えば、なんてことなかった。
思考を乱す相手がいないので、先程のように表情を緩めることもなく、アレクシスは悠然とした姿で招待客への挨拶をこなしていた。
しかし、披露宴の間、左手の甲が疼いて仕方なかった。
刻印がされた瞬間に火傷したような痛みを一瞬だけ感じたけれど、その後は特に何も感じなかった。
けれども、時間が経った今は疼いている。反対の手で触れてみたけれど傷になっているわけでもないし、擦っても痛みが和らぐことはなかった。
痛みは我慢できる程度のものであったのだけど、その疼きが、刻印に急かされているような気がしてならなかった。
何を急かされているというのか――不明なままで、段々とそれが胸をざわつかせて不安に変わると、アレクシスに焦りを思い出させる。
「彼女は?」
招待客への挨拶を一通り終えたアレクシスが侍従にミラの様子を伺うと、彼女はすでに1時間前に会場を後にしたと答えが返ってきた。
アレクシスの予定では、この後、バンズ公爵家の披露宴会場にミラを迎えに行って、二人揃って屋敷に帰る筈だった。
予想よりも早い彼女の行動に、疼いた左手の甲が不安を煽ると、反対の手で、甲ではなくカフスボタンを指先でいじりながら、侍従に向けて静かに頷いて理解を示した。
それから、会場にいる両親と弟に残りの対応を任せると、ミラを追いかけるようにアレクシスも会場を後にした。
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