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42.想いは淡く願いは儚く(中)
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三角の形をした焼き菓子が、ミラの瞳を奪ったのは7歳の頃、建国祭で貴族の子供たちが集うパーティー会場でのことだった。
初めて見る形の焼き菓子に興味が湧いて、1つ皿に取って一人でソファ席に座って、食べてみた。
初めて口にしたそれは、ザクザクとした食感のアーモンドが香ばしくて、メープルシロップの蕩けた甘さが口の中に広がるとミラの舌を唸らせた。
普段食べていたスコーンはシンプルなもので、形も三角ではないため、その焼き菓子の名前が分からずに、その後のパーティー会場に並べられることもなく残念に思っていた。
何年かすると、王都の街にある菓子店に同じ三角形の焼き菓子が置いてあるのを見つけて、形は違うがこれもスコーンであることを知った。
どうやら、外国では三角形が主流で、種類も豊富なのだそう。
しかし、その見つけたスコーンは、あの日ミラを感動させたものではなかった。
それでも、たまに食べたくなるので、手を伸ばしてみるのだけど、やはりあのときのあの焼き菓子が恋しくなった。
そして、初めて出会った日から十数年経った今、ミラは再会を果たした。
あの日、ミラの心を奪った焼き菓子は、この店のものだったのだと、蜂蜜色の瞳を輝かせて、一人でその味を噛み締めていた。
(ヴィガード公爵家の領地にある店だったのね……)
しかも、王都から離れた別荘地にある店の菓子だった。だから出会えなかったのだ。
出来上がったものを流通させるには、作ってから日が経ってしまうから難しいだろう。
きっとあのとき、たまたま王都に店のパティシエが来ていて作らせたもので、ヴィガード公爵家が用意した菓子の内の一つだったのだろうと予想した。
懐かしい味を楽しんでいると、食べる前まで落ち着かなかった胸の鼓動のことなど忘れてしまい、ミラは充実した休憩を過ごした。
ちなみに、アレクシスが食べ切れないほど買ってきてくれたタルトは、病院で働く従業員一同と、ミラの自宅で働く侍女やメイド達に配って、ようやく片付いたのだった。
それから三日後と、そのまた四日後にアレクシスは馬車で片道三時間の距離を、ミラに会いに来るという目的のためだけに足を運んだ。
そんな彼を適当にあしらうわけにもいかず、ミラは昼食を一緒にどうかと誘うと、今度は断らずに、アレクシスは首を縦に振って誘いを受けた。
昼食に選んだ店は、座る席を決めるとその席に割り当てられた番号の札を持って、カウンターに行って注文をすると、席まで出来上がった料理を持ってきてくれるシステムだった。
「私が注文してくるから、アレクさんは待ってて」
ミラがそう言うと、彼は微笑んでうなずいた。
日替わりのおすすめセットというものが昼食の時間帯にはあって、ミラはそのおすすめの内容を見て、彼の苦手なきのこが入っていないことを確認すると、それを2つ注文した。
セットに付く飲み物だけ先に受け取って、席に戻る途中、ふと、ミラは足を止めた。
二人は、全面ガラス張りの店内の端にある席を選んでいた。
粗末な店ではないけれど、お洒落というには物足りない店で、貴族が好んで来る雰囲気ではない場所。
王都の街とは違って、他国から来た客や、観光客と様々な風貌の人が行き交う、活気のあるこの街は、煌びやかで華やかな印象からはかけ離れていた。
そんな場所に、次期公爵という誇り高き身分の彼が、見るからに高貴なオーラを放ちながら椅子に座っていた。
腕と足を組んで、見事にスマートな男性を演出している姿は、文句のつけようがなく、素敵であった。
外を歩く女性たちが、ガラスの向こうにいるアレクシスに気づくと、皆振り向いて見る。
思わず立ち止まっている女性もいた。
王都にいた頃も、彼を熱い視線で見つめる女性は大勢いた。
入院中も、女性看護師たちが黄色い声を上げて彼の噂をしている声が止むことはなかった。
(相変わらず、女性人気の高い顔だこと……)
しかし、それもそうだと、ミラは一人で納得していた。
口には出せないけれど、王族の男たちよりも、アレクシスの顔は人の目を惹き付ける。パーティー会場でも、女性の目線は王太子ではなくて、アレクシスに向けて流れるのが常だったほど。
だからというわけではないけれど、ミラは彼のその顔に心を奪われた。
ふと気づいたら、その相手がアレクシス・ヴィガードだった。それだけだった。
遠くから眺める彼の姿が好きで、こちらを見ない彼の横顔も、寂しくはあったけど、好きだった。
けど、それは、過去の話。
その時の情景が思い出されると、ミラは立ち止まった足を前に進めた。
(あの頃のアレクシスの顔も良いけど……)
ミラが戻るのを待っていた彼は、遠くから見ている限りは無表情で、以前の彼を彷彿とさせる姿を見せていた。
だけど、ミラの姿を見るなり、にこやかな笑みを浮かべてみせるその姿は、過去の彼を忘れさせた。
(……今の彼の方が、好き)
ミラは、その膨らんでいく想いを、少しずつ自覚していた。
その度に、胸が切なくて、どうしようもない感情が湧いてくるけど、淡い想いがミラの決意を揺るがせている。
このままでは、いけないのに。
いつか、目覚めて消える夢と同じであるのに。
消えないでほしいと、願ってしまう。
初めて見る形の焼き菓子に興味が湧いて、1つ皿に取って一人でソファ席に座って、食べてみた。
初めて口にしたそれは、ザクザクとした食感のアーモンドが香ばしくて、メープルシロップの蕩けた甘さが口の中に広がるとミラの舌を唸らせた。
普段食べていたスコーンはシンプルなもので、形も三角ではないため、その焼き菓子の名前が分からずに、その後のパーティー会場に並べられることもなく残念に思っていた。
何年かすると、王都の街にある菓子店に同じ三角形の焼き菓子が置いてあるのを見つけて、形は違うがこれもスコーンであることを知った。
どうやら、外国では三角形が主流で、種類も豊富なのだそう。
しかし、その見つけたスコーンは、あの日ミラを感動させたものではなかった。
それでも、たまに食べたくなるので、手を伸ばしてみるのだけど、やはりあのときのあの焼き菓子が恋しくなった。
そして、初めて出会った日から十数年経った今、ミラは再会を果たした。
あの日、ミラの心を奪った焼き菓子は、この店のものだったのだと、蜂蜜色の瞳を輝かせて、一人でその味を噛み締めていた。
(ヴィガード公爵家の領地にある店だったのね……)
しかも、王都から離れた別荘地にある店の菓子だった。だから出会えなかったのだ。
出来上がったものを流通させるには、作ってから日が経ってしまうから難しいだろう。
きっとあのとき、たまたま王都に店のパティシエが来ていて作らせたもので、ヴィガード公爵家が用意した菓子の内の一つだったのだろうと予想した。
懐かしい味を楽しんでいると、食べる前まで落ち着かなかった胸の鼓動のことなど忘れてしまい、ミラは充実した休憩を過ごした。
ちなみに、アレクシスが食べ切れないほど買ってきてくれたタルトは、病院で働く従業員一同と、ミラの自宅で働く侍女やメイド達に配って、ようやく片付いたのだった。
それから三日後と、そのまた四日後にアレクシスは馬車で片道三時間の距離を、ミラに会いに来るという目的のためだけに足を運んだ。
そんな彼を適当にあしらうわけにもいかず、ミラは昼食を一緒にどうかと誘うと、今度は断らずに、アレクシスは首を縦に振って誘いを受けた。
昼食に選んだ店は、座る席を決めるとその席に割り当てられた番号の札を持って、カウンターに行って注文をすると、席まで出来上がった料理を持ってきてくれるシステムだった。
「私が注文してくるから、アレクさんは待ってて」
ミラがそう言うと、彼は微笑んでうなずいた。
日替わりのおすすめセットというものが昼食の時間帯にはあって、ミラはそのおすすめの内容を見て、彼の苦手なきのこが入っていないことを確認すると、それを2つ注文した。
セットに付く飲み物だけ先に受け取って、席に戻る途中、ふと、ミラは足を止めた。
二人は、全面ガラス張りの店内の端にある席を選んでいた。
粗末な店ではないけれど、お洒落というには物足りない店で、貴族が好んで来る雰囲気ではない場所。
王都の街とは違って、他国から来た客や、観光客と様々な風貌の人が行き交う、活気のあるこの街は、煌びやかで華やかな印象からはかけ離れていた。
そんな場所に、次期公爵という誇り高き身分の彼が、見るからに高貴なオーラを放ちながら椅子に座っていた。
腕と足を組んで、見事にスマートな男性を演出している姿は、文句のつけようがなく、素敵であった。
外を歩く女性たちが、ガラスの向こうにいるアレクシスに気づくと、皆振り向いて見る。
思わず立ち止まっている女性もいた。
王都にいた頃も、彼を熱い視線で見つめる女性は大勢いた。
入院中も、女性看護師たちが黄色い声を上げて彼の噂をしている声が止むことはなかった。
(相変わらず、女性人気の高い顔だこと……)
しかし、それもそうだと、ミラは一人で納得していた。
口には出せないけれど、王族の男たちよりも、アレクシスの顔は人の目を惹き付ける。パーティー会場でも、女性の目線は王太子ではなくて、アレクシスに向けて流れるのが常だったほど。
だからというわけではないけれど、ミラは彼のその顔に心を奪われた。
ふと気づいたら、その相手がアレクシス・ヴィガードだった。それだけだった。
遠くから眺める彼の姿が好きで、こちらを見ない彼の横顔も、寂しくはあったけど、好きだった。
けど、それは、過去の話。
その時の情景が思い出されると、ミラは立ち止まった足を前に進めた。
(あの頃のアレクシスの顔も良いけど……)
ミラが戻るのを待っていた彼は、遠くから見ている限りは無表情で、以前の彼を彷彿とさせる姿を見せていた。
だけど、ミラの姿を見るなり、にこやかな笑みを浮かべてみせるその姿は、過去の彼を忘れさせた。
(……今の彼の方が、好き)
ミラは、その膨らんでいく想いを、少しずつ自覚していた。
その度に、胸が切なくて、どうしようもない感情が湧いてくるけど、淡い想いがミラの決意を揺るがせている。
このままでは、いけないのに。
いつか、目覚めて消える夢と同じであるのに。
消えないでほしいと、願ってしまう。
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