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44.願いの代償
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アレクシスの想い人である彼女への気持ちは、抱えきれないほどにまで膨れ上がっている。
ミラへの手土産を買いに菓子店に足を運ぶと、見つけたスコーンは、ミラを初めて見たときに蜂蜜色の瞳を輝かせて頬張っていたあのときのものだった。
あの日、そこに並んでいた焼き菓子は、ヴィガード公爵家が用意したものであったから、アレクシスは紅茶色の髪の少女が消えた後、数が減っていた菓子を確認していた。
あの頃のように、彼女が瞳を輝かせてスコーンを見つめる姿が、愛しくて仕方なかった。
アレクシスが会いに行っても嫌な顔をせず、昼食に誘ってくれることが嬉しかった。
他の男性の食事の誘いは断るのに、アレクシスのことは自ら誘ってくれるなんてと感動で胸を震わせていた。
患者と薬剤師の関係から、近付けたような気がしていた。
揶揄うために付けたとはいえ、ミラの耳で揺れる赤い宝石が自分が隣にいることを許してくれているようで、嬉しかった。
勝手に手を掴んで引き寄せてしまって、嫌がらないかと心配で見つめていると、そんな素振りを一切見せなくて、受け入れてくれた彼女に想いを伝えたくて堪らないのに、声が出せないことがもどかしかった。
声がなくても、伝わってほしいと願いを込めて見つめても、やはりそれは難しいようで、ミラから空を見るようにと指摘されてしまって残念な気持ちになった。
空を見上げると、瞳に映る流れ星一つ一つに、願いを込めた。
彼女の瞳を見つめる時間が、永く続きますように。
彼女の瞳に映るのが、自分一人だけでありますように。
(僕の声が、戻りますように……)
流れ星が願いを叶えてくれるという、おとぎ話のような迷信を信じたことなんてないけれど、今日だけは、この瞬間だけは信じた。
「アレクさん……寒くなってきたから、もう、帰りましょうか」
隣から小さい声が聞こえると、冷たい風が吹いて寒く感じたので、ミラの言葉にアレクシスはうなずいて答えた。
もっと早く気付いてあげられれば良かったと、慌ててアレクシスの着ていたコートをミラの肩にかけてあげると、彼女はお礼を言って目を伏せた。
“疲れた?”
馬車までの道のりも、乗ってからも、ミラは目を伏せがちで元気のないように見えた。
「あ……うん。はしゃぎ過ぎちゃったみたい」
ミラは、心配するアレクシスに気を使って、無理に笑顔を作っているようだった。
アレクシスは、ミラの向かいに座っていたのを隣に移動して、肩に寄り掛かるように指で示して促すと、ミラは躊躇いがちにうなずいて寄り掛かると目を閉じた。
祭りに出掛ける今日も、ミラは仕事だった。
アレクシスは、自分のわがままに付き合ってくれた彼女に、申し訳ないと思いながらも、無理をしてでも一緒にいてくれたことに喜びも感じて、複雑な心境だった。
ミラの店の前に馬車が到着すると、もう祭りで賑わう音楽は聞こえなかった。
まだ祭りを楽しんでいるのか、それとも暖かい家の中で過ごしているのか、人気のないその場所は、二人だけの世界のように静寂だった。
先に降りて、ミラに手を差し出したアレクシスが心配して様子を窺っていると、ミラはそっと微笑んだ。
地面に降り立ったミラとの別れの時間に寂しさを感じながら、最後に彼女の耳に揺れるガーネットを目に焼き付けると、ミラの肩に掛けてあげたコートが返された。
「……おやすみなさい」
アレクシスに向けて別れの言葉を伝えると、ミラは歩き出し、アレクシスはその後ろ姿を見送った。
アレクシスは、ミラの姿が見えなくなるまで見つめていた。
だけど、彼女は振り返ることはせず、店の中に消えていった。
だからなのか、妙に不安だった。
普段であれば“また来るよ”と一言かけて別れるところを、疲れている彼女に気を使って次の約束をしなかったせいなのか。
祭りに出掛けることを決めたのが二週間前と期間が短かったせいで、バンズ公爵家の領地内の宿は全て埋まっていた。
仕方なくヴィガード家の屋敷まで三時間の道を、走っている馬車の車内で、アレクシスは収まらない胸騒ぎの原因を探っていた。
他の男に彼女の蜂蜜色の瞳を見せたくなくて、その瞳に他の男を映してほしくなくて、彼女の視界を遮った。
嫉妬して、勝手に相手の男を追い返したことなんて、気にすることでもないのに……それのせいなのだろうか。
考えても、わからなかった。
だが、拭いきれない不安が、段々と焦りに変わる。
そんな気分を抱えたまま、アレクシスを乗せた馬車は、屋敷に辿り着いた。
湯浴みをして、寝室の暖炉の前のソファに腰をかけようとした、そのときだった。
不意に、別れの言葉を言ったミラの姿を思い出した。
彼女は、静かに微笑んでいた。
何度も見たはずの彼女の微笑みに、気付けなかったことを後悔した。
その微笑みが、彼女に湧いた負の感情を隠すための仮面であることを、誰よりも痛感していた。理解しなければいけなかった。
そうであるのに、なぜ、気付けないのか。
(いつも、なんで僕は……!)
あのまま、眠れない夜を過ごして朝を待った。
『さようなら』
別れを告げて姿を消した彼女の記憶が鮮明に思い出されると、焦燥感に襲われて、動悸がした。
すぐにでも、彼女のもとに行きたかった。
しかし、自分勝手に行動して、思い過ごしだったときのことを考えると踏みとどまった。
朝早くに馬車を用意させると、アレクシスはミラの店までの道のりを落ち着かない気持ちのまま過ごした。
(声が出るまでなんて、呑気なことを考えていたから……)
大事なことは自らの口から伝えたいと、いつ戻るのか分からない、戻る保証もないことに拘って、そのせいでまた彼女に嫌な思いをさせてしまったのだ。
きっと、そうなのだと、焦りが消えない。
声なんか、どうでもいい。
だから、どうか、そこにいて――アレクシスは、強く願った。
“しばらくの間不在にするため、休業します”
休業を知らせる紙が、店のドアに張り付けられていた。
アレクシスは、その前に立って放心状態だった。
(不在……?)
昨日、ミラは何も言っていなかった。いや、その前から一言もそんなこと言っていなかった。
不在、ということは、ミラがここにはいないということを指している。
(まただ……)
手を伸ばせばすぐ近くにいたのに、幻であったかのように消えてしまう。
静かに微笑みの仮面を被って、何も言ってくれない。
気付いてあげられないから、愚かな自分に呆れたのだろうか。
近付けたと思っていたのは、勘違いだった。
どうして、なんで――頭の中で色んな感情が混ざって、目の前が真っ暗になった。
しかし、そのままそこに立ち尽くしているわけにはいかず、アレクシスは病院にいる従兄弟にミラの行方を聞きに向かった。
「彼女は、定期的に薬草の調達に出掛けるんですよ」
どうやら、突然いなくなったわけではないようだった。
「いつもは二、三週間ほどで帰ってくるんですけど……今回は別の用件もあるから、もう少しかかると言ってました」
事前に知らなかったアレクシスの様子が、いつもと違うような気がして心配をしたテイラーは、親切に提案してくれた。
「帰る前に連絡をくれるはずですから、帰る日がわかったら、そちらに使いの者を送りますよ」
そんな従兄弟に対しても、アレクシスは無表情のままだった。
無表情というよりも、暗く沈んだ顔をしていた。
彼の提案に感謝を示すお辞儀をして、アレクシスは屋敷までの帰路に就いた。
馬車に乗り込む前に、ミラのいない店に振り返ると、昨日の彼女の姿が思い出された。
それと、過去にも同じ表情をしていた彼女の幻影も一緒に。
「……ミラ」
彼女の名前を声に出せるときが突然来るかもしれないと、毎日試していた。
いつか、また、その名前を口ずさむときが来るようにと願いを込めて。
その願いが、今叶った。
ミラがいなくなったその日に、その場所で。
久しぶりのせいか、か細い声で、冷たい空気に儚く消えるだけの声だったけれど、言葉にできたその人の名が、アレクシスの胸を温もりで満たした。
そして、虚しくさせた。
「……ハハ」
声を失くす代わりに、会いたくて恋しかった人に会えた。
今度は、声を得る代わりに、会えなくなった。
天に弄ばれている自分が可笑しくて、アレクシスは自らを嘲笑した。
「兄さん……もしかして、振られたの?」
こんな愚かな質問ができるのは、弟のレイリーしかいない。
今まで、弟からどんなわがままを言われても、嫌な気もしなかったし、受け入れてきた。
だが、アレクシスは今この瞬間、初めて弟が憎いと思った。
いくら弟といえども、踏み込んではいけない領域がある。
目を通していた書類から、レイリーに視線を向けたアレクシスの眼差しは、暗く沈んでいるのに、鋭く突き刺さるほど痛いものだった。
「……違う」
恐らく、いや多分……そうであってほしい。
薬草の調達で三週間以上も不在にするなら、アレクシスに事前に言ってくれてもいいことであるのに、ミラはそうしなかった。
何度も、ミラに会いに足を運んだ。
また来ると約束をして、星祭りにも誘ったのに、彼女からすれば、そんなことどうでも良かったのか。
彼女に言い寄る他の男同様に、適当にあしらえる、そんな軽い存在だったのかもしれないと、告白もしていないのに振られたような気になった。
もしかしたら弟の言うように、振られたのかもしれないが、認めたくなかった。
彼女が帰ってきたら、もう思い止まることをやめると決めた。
どんな方法を使っても、もう離す気はないと、今度こそ捕まえるつもりだった。
ミラに会えない間に、まともに睡眠の取れない頭は冷静になれず、恋しい気持ちが段々と憎しみに変わり、アレクシスの感情は歪んでいた。
にこやかだった兄の姿の変わりように、レイリーはそれ以上兄の恋路を突っつくことを止めてため息を吐くと、業務に戻った。
そこに、ミラが三日後に帰ることを知らせる手紙を持った、バンズ家の使者がやって来た。
ミラへの手土産を買いに菓子店に足を運ぶと、見つけたスコーンは、ミラを初めて見たときに蜂蜜色の瞳を輝かせて頬張っていたあのときのものだった。
あの日、そこに並んでいた焼き菓子は、ヴィガード公爵家が用意したものであったから、アレクシスは紅茶色の髪の少女が消えた後、数が減っていた菓子を確認していた。
あの頃のように、彼女が瞳を輝かせてスコーンを見つめる姿が、愛しくて仕方なかった。
アレクシスが会いに行っても嫌な顔をせず、昼食に誘ってくれることが嬉しかった。
他の男性の食事の誘いは断るのに、アレクシスのことは自ら誘ってくれるなんてと感動で胸を震わせていた。
患者と薬剤師の関係から、近付けたような気がしていた。
揶揄うために付けたとはいえ、ミラの耳で揺れる赤い宝石が自分が隣にいることを許してくれているようで、嬉しかった。
勝手に手を掴んで引き寄せてしまって、嫌がらないかと心配で見つめていると、そんな素振りを一切見せなくて、受け入れてくれた彼女に想いを伝えたくて堪らないのに、声が出せないことがもどかしかった。
声がなくても、伝わってほしいと願いを込めて見つめても、やはりそれは難しいようで、ミラから空を見るようにと指摘されてしまって残念な気持ちになった。
空を見上げると、瞳に映る流れ星一つ一つに、願いを込めた。
彼女の瞳を見つめる時間が、永く続きますように。
彼女の瞳に映るのが、自分一人だけでありますように。
(僕の声が、戻りますように……)
流れ星が願いを叶えてくれるという、おとぎ話のような迷信を信じたことなんてないけれど、今日だけは、この瞬間だけは信じた。
「アレクさん……寒くなってきたから、もう、帰りましょうか」
隣から小さい声が聞こえると、冷たい風が吹いて寒く感じたので、ミラの言葉にアレクシスはうなずいて答えた。
もっと早く気付いてあげられれば良かったと、慌ててアレクシスの着ていたコートをミラの肩にかけてあげると、彼女はお礼を言って目を伏せた。
“疲れた?”
馬車までの道のりも、乗ってからも、ミラは目を伏せがちで元気のないように見えた。
「あ……うん。はしゃぎ過ぎちゃったみたい」
ミラは、心配するアレクシスに気を使って、無理に笑顔を作っているようだった。
アレクシスは、ミラの向かいに座っていたのを隣に移動して、肩に寄り掛かるように指で示して促すと、ミラは躊躇いがちにうなずいて寄り掛かると目を閉じた。
祭りに出掛ける今日も、ミラは仕事だった。
アレクシスは、自分のわがままに付き合ってくれた彼女に、申し訳ないと思いながらも、無理をしてでも一緒にいてくれたことに喜びも感じて、複雑な心境だった。
ミラの店の前に馬車が到着すると、もう祭りで賑わう音楽は聞こえなかった。
まだ祭りを楽しんでいるのか、それとも暖かい家の中で過ごしているのか、人気のないその場所は、二人だけの世界のように静寂だった。
先に降りて、ミラに手を差し出したアレクシスが心配して様子を窺っていると、ミラはそっと微笑んだ。
地面に降り立ったミラとの別れの時間に寂しさを感じながら、最後に彼女の耳に揺れるガーネットを目に焼き付けると、ミラの肩に掛けてあげたコートが返された。
「……おやすみなさい」
アレクシスに向けて別れの言葉を伝えると、ミラは歩き出し、アレクシスはその後ろ姿を見送った。
アレクシスは、ミラの姿が見えなくなるまで見つめていた。
だけど、彼女は振り返ることはせず、店の中に消えていった。
だからなのか、妙に不安だった。
普段であれば“また来るよ”と一言かけて別れるところを、疲れている彼女に気を使って次の約束をしなかったせいなのか。
祭りに出掛けることを決めたのが二週間前と期間が短かったせいで、バンズ公爵家の領地内の宿は全て埋まっていた。
仕方なくヴィガード家の屋敷まで三時間の道を、走っている馬車の車内で、アレクシスは収まらない胸騒ぎの原因を探っていた。
他の男に彼女の蜂蜜色の瞳を見せたくなくて、その瞳に他の男を映してほしくなくて、彼女の視界を遮った。
嫉妬して、勝手に相手の男を追い返したことなんて、気にすることでもないのに……それのせいなのだろうか。
考えても、わからなかった。
だが、拭いきれない不安が、段々と焦りに変わる。
そんな気分を抱えたまま、アレクシスを乗せた馬車は、屋敷に辿り着いた。
湯浴みをして、寝室の暖炉の前のソファに腰をかけようとした、そのときだった。
不意に、別れの言葉を言ったミラの姿を思い出した。
彼女は、静かに微笑んでいた。
何度も見たはずの彼女の微笑みに、気付けなかったことを後悔した。
その微笑みが、彼女に湧いた負の感情を隠すための仮面であることを、誰よりも痛感していた。理解しなければいけなかった。
そうであるのに、なぜ、気付けないのか。
(いつも、なんで僕は……!)
あのまま、眠れない夜を過ごして朝を待った。
『さようなら』
別れを告げて姿を消した彼女の記憶が鮮明に思い出されると、焦燥感に襲われて、動悸がした。
すぐにでも、彼女のもとに行きたかった。
しかし、自分勝手に行動して、思い過ごしだったときのことを考えると踏みとどまった。
朝早くに馬車を用意させると、アレクシスはミラの店までの道のりを落ち着かない気持ちのまま過ごした。
(声が出るまでなんて、呑気なことを考えていたから……)
大事なことは自らの口から伝えたいと、いつ戻るのか分からない、戻る保証もないことに拘って、そのせいでまた彼女に嫌な思いをさせてしまったのだ。
きっと、そうなのだと、焦りが消えない。
声なんか、どうでもいい。
だから、どうか、そこにいて――アレクシスは、強く願った。
“しばらくの間不在にするため、休業します”
休業を知らせる紙が、店のドアに張り付けられていた。
アレクシスは、その前に立って放心状態だった。
(不在……?)
昨日、ミラは何も言っていなかった。いや、その前から一言もそんなこと言っていなかった。
不在、ということは、ミラがここにはいないということを指している。
(まただ……)
手を伸ばせばすぐ近くにいたのに、幻であったかのように消えてしまう。
静かに微笑みの仮面を被って、何も言ってくれない。
気付いてあげられないから、愚かな自分に呆れたのだろうか。
近付けたと思っていたのは、勘違いだった。
どうして、なんで――頭の中で色んな感情が混ざって、目の前が真っ暗になった。
しかし、そのままそこに立ち尽くしているわけにはいかず、アレクシスは病院にいる従兄弟にミラの行方を聞きに向かった。
「彼女は、定期的に薬草の調達に出掛けるんですよ」
どうやら、突然いなくなったわけではないようだった。
「いつもは二、三週間ほどで帰ってくるんですけど……今回は別の用件もあるから、もう少しかかると言ってました」
事前に知らなかったアレクシスの様子が、いつもと違うような気がして心配をしたテイラーは、親切に提案してくれた。
「帰る前に連絡をくれるはずですから、帰る日がわかったら、そちらに使いの者を送りますよ」
そんな従兄弟に対しても、アレクシスは無表情のままだった。
無表情というよりも、暗く沈んだ顔をしていた。
彼の提案に感謝を示すお辞儀をして、アレクシスは屋敷までの帰路に就いた。
馬車に乗り込む前に、ミラのいない店に振り返ると、昨日の彼女の姿が思い出された。
それと、過去にも同じ表情をしていた彼女の幻影も一緒に。
「……ミラ」
彼女の名前を声に出せるときが突然来るかもしれないと、毎日試していた。
いつか、また、その名前を口ずさむときが来るようにと願いを込めて。
その願いが、今叶った。
ミラがいなくなったその日に、その場所で。
久しぶりのせいか、か細い声で、冷たい空気に儚く消えるだけの声だったけれど、言葉にできたその人の名が、アレクシスの胸を温もりで満たした。
そして、虚しくさせた。
「……ハハ」
声を失くす代わりに、会いたくて恋しかった人に会えた。
今度は、声を得る代わりに、会えなくなった。
天に弄ばれている自分が可笑しくて、アレクシスは自らを嘲笑した。
「兄さん……もしかして、振られたの?」
こんな愚かな質問ができるのは、弟のレイリーしかいない。
今まで、弟からどんなわがままを言われても、嫌な気もしなかったし、受け入れてきた。
だが、アレクシスは今この瞬間、初めて弟が憎いと思った。
いくら弟といえども、踏み込んではいけない領域がある。
目を通していた書類から、レイリーに視線を向けたアレクシスの眼差しは、暗く沈んでいるのに、鋭く突き刺さるほど痛いものだった。
「……違う」
恐らく、いや多分……そうであってほしい。
薬草の調達で三週間以上も不在にするなら、アレクシスに事前に言ってくれてもいいことであるのに、ミラはそうしなかった。
何度も、ミラに会いに足を運んだ。
また来ると約束をして、星祭りにも誘ったのに、彼女からすれば、そんなことどうでも良かったのか。
彼女に言い寄る他の男同様に、適当にあしらえる、そんな軽い存在だったのかもしれないと、告白もしていないのに振られたような気になった。
もしかしたら弟の言うように、振られたのかもしれないが、認めたくなかった。
彼女が帰ってきたら、もう思い止まることをやめると決めた。
どんな方法を使っても、もう離す気はないと、今度こそ捕まえるつもりだった。
ミラに会えない間に、まともに睡眠の取れない頭は冷静になれず、恋しい気持ちが段々と憎しみに変わり、アレクシスの感情は歪んでいた。
にこやかだった兄の姿の変わりように、レイリーはそれ以上兄の恋路を突っつくことを止めてため息を吐くと、業務に戻った。
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